ノーベル医学生理学賞受賞のきっかけとなったイベルメクチン

ノーベル医学生理学賞に北里大特別栄誉教授の大村智氏が輝きました。業績は「寄生虫による感染症とマラリアの新治療法の発見」ということで、大村さんは、アイルランドのキャンベルさんとともに、寄生虫病の治療薬「イベルメクチン」の開発により、患者の2割が失明する恐れがあるとされる「河川盲目症(オンコセルカ症)」の治療に貢献したとして、評価されました。

回虫であるオンコセルカ症の治療薬、イベルメクチン

オンコセルカ症とはどんなものかというと、回虫である回旋糸状虫による感染症で、この回虫により、激しいかゆみ、発疹、時としてリンパ節の腫れ、瘢痕、そして失明の原因にもなる眼の症状が引き起こされる病気で、河川で繁殖するブヨにより感染していきます。

日本ではなじみがあまりありませんが、熱帯地域やアフリカ南部のサハラ以南で最もよくみられる感染症です。

地球規模でみてみると約1,800万人がオンコセルカ症に罹患しています。そのうち27万人が失明し、50万人が視覚障害になっていると言われていて、失明原因としては第2位になっています。

オンコセルカ症の感染は、ブユが感染者を刺すことによって、ミクロフィラリアと呼ばれる前期幼虫が感染します。この前期幼虫はブユ中で幼虫となりますが、このブユが別の人を刺すと、幼虫が皮膚から侵入して、別の人に感染します。
幼虫は皮膚の中に入り、こぶ(小結節)をつくり、ここで12~18カ月かけて成虫となりま、長ければ15年生存し、メスの成虫は卵を産み、これがミクロフィラリアとなり放出されます。数千のミクロフィラリアは皮膚や眼の組織内を移動して、病気を引き起こします。

イベルメクチンが効果がある病原微生物

イベルメクチンは、商品名ストロメクトールとしてMSD-マルホから出されています。

病原微生物は、分類すると次のようになります。
1.ウイルス
2.原核細胞生物いわゆる細菌
3.真核細胞生物
(1)真菌
(2)原生動物
(3)節足動物(蜘蛛類と昆虫)
(4)蠕虫類(Helminths)
①扁形動物(吸虫類、条虫類)
線形動物(回虫等の線虫類、鉤頭虫類、鉄線虫類)

このうち、イベルメクチンが効果を発揮するのは、節足動物と線形動物の寄生虫になります。

参考 : エバーメクチンの発見とその後の展開(大村智)第12回マクロライド新作用研究会記録 特別講演2
http://www.antibiotics.or.jp/MLs/12th/12th_MLs_106.pdf

 

イベルメクチンの効き方

イベルメクチンは、回虫をはじめとした線形動物の神経・筋肉細胞に作用します。
線形動物である寄生虫の細胞膜には、グルタミン酸作動性クロライドチャンネルというものがあり、これは抑制系として働いています。
細胞膜外には、塩素イオンつまりクロライドイオンが多くあります。

そこにイベルメクチンが入ってくると、寄生虫の神経細胞や筋細胞の細胞膜上にあるグルタミン酸作動性クロライドチャンネルに作用します。イベルメクチンは、閉まっていたグルタミン酸作動性クロライドチャンネルを開いてしまいます。

イベルメクチンによりグルタミン酸作動性クロライドチャンネルが開くと、細胞膜透過性があがり、細胞膜外にあった塩素イオンが細胞内に流入してきます。そしてこれが、神経細胞や筋細胞を麻痺させるので、寄生虫が抑えられていきます。

ちなみに哺乳類には、このグルタミン酸作動性クロライドチャンネルは無いことから、ヒトに対して使われるようになりました。