睡眠の生理と重要性

睡眠の生理と重要性

不眠・睡眠に関する現状と、その改善方法について紹介していきます。

人はなぜ眠るのか

人間の3大欲といえば、食欲・性欲・睡眠欲です。この3大欲は本能的欲求とも言われていますが、その中でも強いのが睡眠欲だと言われています。それだけ人間の体が睡眠を欲しているという裏付けかもしれません。
睡眠はなぜ必要なのかということは非常に難しい問題ですが、睡眠によって全身状態の均衡が保たれ、疲れた体や脳が回復し、全身のリズムが調整されることによって、生物としての自己の生命維持に大切であることから、睡眠は必要であると言えます。

レム睡眠とノンレム睡眠

睡眠中はの体が休まるだけでなく、脳の活動も低下しています。
睡眠はレム睡眠とノンレム睡眠の2つに大きく分けることができます。
レム睡眠(REM:rapid eye movement[急速眼球運動]睡眠)は、脳の活動低下が少なく、眼球が急速に動く急速眼球運動があり、体の筋肉は弛緩しています。金縛りは、体は寝ているので動けないのに脳は起きたまま意識はあるという状態で、ちょうどこのレム睡眠のときに起こります。レム睡眠は体の休息を取るための睡眠と家、夢を見るのもこのレム睡眠の時です。
成人では睡眠の約20%がレム睡眠と言われています。
ノンレム睡眠はレム睡眠以外の睡眠ということになり、脳の睡眠とも言われています。第一段階、第二段階、第三段階、第四段階があり第四段階になるにつれ深くなります。ノンレム睡眠は脳を休ませための眠りとも言われています。
レム睡眠とノンレム睡眠は大体約90分の周期で1晩に4~5回繰り返されます。

 


睡眠中の生理

睡眠中は、さまざまなホルモン分泌の調整がなされ、自律神経を含めた脳・神経系のバランスが維持されるとともに、血圧や心拍数、体温、呼吸といった生理機能も睡眠中に規則正しく変動します。

 


 

血圧

睡眠中の血圧の変動については、まず血圧は入眠するとともに下降します。
そしてその後だんだんと上昇していきます。
またレム睡眠の時とノンレム睡眠の時を火悪すると、レム睡眠の時のほうが約5mmHgほど高くなることがわかっていて、これは休息眼球運動の動きと一致しています。
そして、朝起きる時に急上昇します。

 

体温(直腸温)

睡眠と体温は非常の深い関係にあります。おでこの奥の方にある「視交叉上核(しこうさじょうかく)」が体内時計に関与していて体温リズムの他、睡眠・目覚めなどの生体リズムを作り出しています。また「前視床下部」が熱産生・放熱機構を調整し、体内時計の基準値に近づけるようしています。
通常の生活をしていると、人間は夜になると体温が低くなって眠くなり、入眠によって代謝が低下してさらに体温が下がっていきます。
体温の低下はノンレム睡眠の第4段階、特に眠りが深い徐波睡眠のときに大きくなることがわかっています。一方レム睡眠ではわずかに体温は上昇します。
ちなみによる徹夜などで夜全く眠らないと体温の低下があまり起こらなくなります

 

心拍数

心拍数は睡眠に伴って減少していきます。これは 睡眠時は副交感神経が優位に働くため、心拍数が下がる方向に働くためです。
またレム睡眠では一過性に心拍数は増加します。

 

呼吸

呼吸はポリグラフなどでその動向を知ることができますが、入眠してノンレム睡眠に入るとゆっくりと規則正しくなり、換気量も減少します。
一方レム睡眠では速くて不規則になり換気量も増加します。

 

発汗

寝汗という言葉があるように、人は寝ている間も汗をかいています。
個人差や寝ている部屋の環境もあるので一概には言えませんが、一般的には寝ている間にはコップ1杯分の汗をかくと言われています。
その汗ですが、入眠直後に増加して、時間とともに減少していきます。
また胸部の汗についてはノンレム睡眠中に像かして、レム睡眠中は減少することがわかっています。

 

ホルモン

睡眠と関係が深く睡眠を司ると言われるメラトニンは、夕方から夜にかけて分泌され、抗酸化作用とともに睡眠や体温低下などのリズム調整を行う作用があり、メラトニンの分泌とともに眠くなるようになっています。
朝、目覚めるとともにセロトニンが分泌され交感神経を刺激し、交感神経優位モードになっていきます。
入眠ととのに最初におとずれるノンレム睡眠のときに、成長ホルモンの分泌が多く行われ、覚醒直前に抗ストレスホルモンといわれるコルチゾールの分泌が最大になります。

睡眠の効果とは

睡眠は大切な生理作用ですが、いろいろな効果があります。

 

体と脳の疲れを取る

肉体労働で体を使っている人はもちろん、デスクワークの人も脳が活発に活動し多くのエネルギーを使い消耗します。
こうした疲れを取るために睡眠が必要になってくるのですが、体の疲れと脳の疲れということでみると、脳の疲れを取るためには、体の疲れをとるよりも数倍の睡眠が必要だとも言われています。
一晩の睡眠でレム睡眠の時間よりもノンレム睡眠の時間が数倍も多いというのも、こういった生理的な理由があるのかもしれません。

 

体の成長&老化防止

睡眠中といえば、いろいろなホルモンの分泌が変化します。
成長ホルモンは脳下垂体から分泌されますが、子供の成長に大きく関わるだけでなく、成人してからも組織の損傷を修復したり疲労回復をしたりするのに役立っています。寝る子は育つというのは、まさにその通りかもしれません。
成長ホルモンは、入眠して最初の深いノンレム睡眠の時に集中して多く分泌されます。
質の良い睡眠を取ることは、老化防止や若さの維持にもつながります。

 

ストレス解消

ストレスを感じるとき、人間の脳は疲れています。睡眠により脳が急速するので、睡眠は非常に有効なストレス解消法だと言われています。
ストレスといえば、抗ストレスホルモンであるコルチゾールというホルモンで、このホルモンは副腎から分泌され、代謝促進作用がありストレスに応じて分泌量が増えてきます。
コルチゾールは覚醒する直前に分泌が最大になります。

 

記憶の定着

睡眠時間を削っても勉強しろというようなことを言ったりしますが、それは大きな間違いです。
どうしてもという時は仕方がないのかもしれませんが、人間の脳は睡眠中に、その日に起こった出来事や、学習したことを整理して、記憶すべき情報として定着させていると考えられるようになってきています。

 

病気予防

睡眠中は、骨髄で白血球、赤血球、リンパ液などが生産され、血行が促進されます。これは病気や病原体への抵抗力や免疫力を高める働きにもつながります。
また睡眠中には、体組織の修復・再生、代謝を行う成長ホルモンが分泌され、古くなったり傷ついた細胞などを修復し、さらに心臓の負担を下げ、心臓を休ませることもできます。

人間の睡眠と動物の睡眠

人間と他の哺乳動物の睡眠は生物学的には同じで、ノンレム睡眠とレム睡眠を繰り返します。
しかし、人間は連続して長い間覚醒し続けたり、連続して長く眠り続けるいわゆる単相性睡眠ですが、他の哺乳動物は多相性睡眠つまり1日に何回も眠る睡眠パターンになっています。人間も赤ちゃんの時はこの多相性睡眠が見られます。
しっかりとした住居を持ち、外敵に襲われる心配がない人間は、体の概日リズムの休息に合わせて睡眠のリズムを同期して、単相性睡眠となったのではないかと思われます。野生の動物では何時間もぐっすり眠っていたりすると、外敵の餌食にもなりかねません。

睡眠に影響を及ぼす要因

睡眠はいろいろな要素によって影響を受けると言われています。

 

年齢と睡眠

胎児や新生児は睡眠は未分化で睡眠時間が多く、昼夜問わず小刻みに睡眠を繰り返す多相性睡眠ですが、幼児期になると昼夜リズムと同調してきて昼寝時間が短くなり夜に連続した長い睡眠を取るようになります。
思春期から成人にかけては個人差もありますが、睡眠時間は減少するものの、深いノンレム睡眠が多くなります。
中高年になると加齢とともに睡眠の質が劣化し、深いノンレム睡眠が減少したり、中途覚醒などが起き、昼寝をしたり居眠りをしたりすることが起こります。

 

性と睡眠

性中枢と睡眠中枢は隣接していて、睡眠は性の影響も受けます。
女性は卵胞ホルモンが眠気抑制的に働くのに対し、黄体ホルモンは眠気促進的に働きます。
黄体ホルモンの分泌が高まる妊娠初期は眠気が増し、妊娠後期から哺乳期は不眠傾向が強まるのはホルモン分泌の影響を受けていると考えられます。
哺乳期間中はホルモンだけでなく乳児の小刻みな睡眠の影響もあり、眠りは分断されます。
それにも関わらずこの時期の女性に不眠を訴える人が少ないのは、不眠耐性を高まり母体が手厚く保護されているからと考えられています。一方、更年期以後になると、男性よりも女性に不眠を訴える人が著しく増加します。
一般に睡眠の質的内容は男性のほうがはるかに劣ると言われていて、これは男性のほうが睡眠時の呼吸機能が弱いためとされています。睡眠時無呼吸症候群による不眠や過眠は圧倒的に中高年の男性に多くなっています。
月経前の黄体期から月経期にかけては睡眠時間が延びたり日中に眠気を感じることが多くなります。

 

睡眠と季節変動

春眠暁を覚えず、燈下親しむ候といったように季節は睡眠と深い関係があるような常套句がありますが、日本人の睡眠は、晩秋から初冬にかけての11~12月に有意に長くなり、暑い真夏の7~8月に有意に短くなることが知られています。

 

睡眠の個人差

なかには1日4~5時間の睡眠でも全然平気という人もいますし、逆に1日9時間以上寝るという人もいますが、遺伝的な素因があるとされていますが、これは必ずしも固定されたものではなく、同じ人でも変動することがあります。
短時間睡眠の人は、深いノンレム睡眠の割合が多く睡眠効率が良く、長時間睡眠の人は浅いノンレム睡眠やレム睡眠の割合が多くなっています。

睡眠中の認知

睡眠中は刺激に対してどれだけの認知があるかについては実験が行われています。
睡眠中の被験者に1Hzで3~6発のフリッカーを与え,閃光の数だけスイッチを押して反応を見るという方法で行った実験では、認知率は次のようになっています。
ノンレム睡眠の第一段階(居眠り状態) : 認知率90%、正確な反応率80%
ノンレム睡眠の第二段階(すやすや寝息状態): 認知率40%、正確な反応率30%
ノンレム睡眠の第三段階・第四段階(徐波睡眠):認知も反応もほとんどなし
レム睡眠 : 認知率70%、正確な反応率50%

睡眠の段階によって現れる行動は違ってくる

睡眠中にはいびきや寝返り、さらには夢を見たりします。例えば金縛りはレム睡眠の時に起こるとされています。

 

児童の夜驚症で最も強い恐怖感を伴って目覚めるとされているのは入眠後最初にやってくるノンレム睡眠の第四段階の時が多く、全体の約70%を占めると言われています。
夢中遊行はノンレム睡眠の第三段階、第四段階で起こり、数分~30分程度続くのですが、歩き回っている最中も脳波はδ波が出ていることがわかっています。
夜尿は入眠後最初のノンレム睡眠の第三段階と第四段階で起こります。
歯ぎしりやいびきは、ノンレム睡眠の第二段階のときに最も多く現れ、ノンレム睡眠の第三段階や第四段階、レム睡眠時には弱まるか止まります。
寝言は、ノンレム睡眠の第二段階でよく起こりますが、レム睡眠の時にも起こります。
悪夢については、そのほとんどがレム睡眠中に起こる情動夢で、このとき恐怖で目が覚めたりします。寝言もレム睡眠で起こるものは、この夢と深く関係していると考えられています。
金縛りは、入眠時に起こりますが、動けない、しゃべれないといった状態で、不安や恐怖感があり、胸の上に何かがのっかているような感じがしたり、誰かがいるような気配を感じたりしますが、これは入眠直後にすんなりとノンレム睡眠に入らずレム睡眠に入ってしまうために、脳は起きているけど体が寝ていて動かない状態が起こります。
金縛りの原因になる入眠直後に起こるレム睡眠は、入眠期レム睡眠(sleep onset REM : SOREMP)と呼ばれています。