

私たちの体には、ヒスタミンを解毒する「DAO(ジアミン酸化酵素)」という重要な門番がいます。しかし、この門番がうまく働かなくなると、健康に良いはずの食事さえも不調のトリガーに変わってしまいます。
『ヒスタミン不耐症』は、ヒスタミンの蓄積速度が、体内のヒスタミン除去能力を上回ったときに発生します。
健康な人では、DAO(ジアミンオキシダーゼ)が、食物から摂取したヒスタミンを除去してくれていますが、このDAO活性が薬剤などの要因によって阻害されたり、遺伝子変異などの内部要因によってその発現が低下したりすると、体内のヒスタミン処理能力が著しく影響を受けます。
これによりヒスタミンが蓄積してしまうとアレルギー反応に似た症状などを引き起こしてしまうのです。
「原因不明の体調不良」として悩む人が多いものとして『ヒスタミン不耐症(HIT)』が知られています。
『ヒスタミン不耐症(HIT)』は、症状としては次のような症状がでてきます。
消化器系: 腹痛、膨満感、下痢、吐き気
皮膚系: じんましん、かゆみ、顔のほてり(フラッシング)
神経・循環器系: 頭痛・偏頭痛、めまい、動悸、低血圧
その他: 鼻炎、生理痛の悪化、慢性的な疲労感
ヒスタミン不耐症を患う133入の患者のサンプルで症状を評価している論文によると、最も頻繁に見られる症状は胃腸症状では、膨満感が被験者の92%に見られています。また、便秘は55% 、腹痛は68% 、下痢は71%、食後の満腹感は73%に見られています。
<参考文献>
Schnedl, WJ; Lackner, S.; Enko, D.; Schenk, M.; Holasek, SJ; Mangge, H.
ヒスタミン不耐症における症状および症状の組み合わせの評価
Evaluation of symptoms and symptom combinations in histamine intolerance
Intest. Res. 2019,17,427-433.
症状だけからみると、一見アレルギーの症状と似ている部分もありますが、発症のメカニズムは全然違っています。
『アレルギー』の症状は、特定の物質を「敵」と見なして、それに対して免疫系が過剰反応することで起こります。
これに対して『ヒスタミン不耐症』の症状は、「体の処理能力を上回るヒスタミンが体内に溜まった状態」になることから起こってきます。
これは、よく『バケツ理論』と呼ばれる理論で説明できます。
つまり、体の処理能力というバケツの処理能力を上回り、バケツから溢れた時に初めて症状が出現してくるというものです。
それでは、『体のヒスタミン処理能力』とは、いったいどういうことなのでしょうか?
まず『ヒスタミン』ですが、『ヒスタミン』は、「ヒスチジン」という必須アミノ酸から作られる生体アミンで、 魚の鮮度が落ちて細菌が増えたり、人間の体内で酵素が働いたり、花粉症や食物アレルギーの際に刺激を受けたりすると、体内で過剰に放出され、くしゃみ、鼻水、目のかゆみ、発疹などの症状を引き起こします。
そのため、こういったアレルギー症状などにこのヒスタミンの働きを抑えるため「抗ヒスタミン薬」がよく使われます。
このヒスタミンが体内で過剰にならないために、体内にはヒスタミンを分解する2つの主要なルートがあります。
その2つのヒスタミン分解の主要なルートとは、『HNMT(ヒスタミン-N-メチル基転移酵素)』と『DAO(ジアミン酸化酵素)』による分解です。
HNMT(ヒスタミン-N-メチル基転移酵素)は、細胞質の酵素で、細胞外のヒスタミンを細胞内に取り込んで、ビタミンB12や葉酸などのビタミンB群などの助けも得ながら分解します。
この酵素は、脳や腎臓・肝臓ではたらき、 脳で情報伝達に使われたヒスタミンの回収や、炎症により肥満細胞から放出されたヒスタミンが組織で過剰にならないよう、速やかに無害なメチルヒスタミンにすることで私たちの体を守ってくれています。
DAO(ジアミン酸化酵素)は、主に小腸の粘膜で分泌されて、食事から摂取したヒスタミンを細胞内に取り込まれる前に分解してくれる、いわば小腸の門番ともいえるキャラです。
このDAOの活性が低いと、ヒスタミンが分解しきれず、腸壁を通過して血管に入り、全身のヒスタミン受容体に結合して、消化不良、便秘、膨満感、下痢、蕁麻疹、頭痛といった多彩な症状を引き起こすのです。
『ヒスタミン不耐症』は、食事由来のヒスタミンをうまく処理できない『DAO不全』が主な原因とされていて、このDAO(ジアミン酸化酵素)が症状の改善の鍵をにぎっています。
<参考文献>
ヒスタミンとヒスタミン不耐症
Histamine and histamine intolerance. Am J Clin Nutr. 2007 May;85(5):1185-96.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17490952/
NIH / StatPearls (生化学/ヒスタミン)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK557790/
ヒスタミン不耐症:知れば知るほどわからなくなる
MDPI Nutrients: "Histamine Intolerance—The More We Know the Less We Know"
https://www.mdpi.com/2072-6643/13/7/2228
DAO(ジアミン酸化酵素)が不足したり機能低下が起こってしまうのは、大きく分けて次の3つの原因が考えられています。
1.遺伝的要因(AOC1遺伝子):
生まれつき『DAO』という酵素を作るのが苦手な体質の人がいます。これは、設計図にあたる『遺伝子』にわずかな個性の違いつまり「AOC1遺伝子」の多型(SNP)があるためです。
2.病理的要因(腸の健康):
DAOは腸粘膜の絨毛の先端部で産生されるため、リーキーガット症候群、炎症性腸疾患(IBD)、セリアック病などで腸粘膜が損傷すると、DAOの分泌量が劇的に減少してしまいます。
3.薬理的要因(阻害物質):
医薬品やアルコールによって、DAOの活性が直接阻害されます。アルコールは、DAOの働きを抑制するばかりか、ヒスタミン遊離も促進してしまいます。また医薬品としては、特定の抗生物質、不整脈薬、抗うつ薬などがDAO活性を妨げるという報告があります。
<参考文献>
ヒスタミン不耐症:知れば知るほどわからなくなる
MDPI Nutrients: "Histamine Intolerance—The More We Know the Less We Know"
https://www.mdpi.com/2072-6643/13/7/2228
ヒスタミン不耐症(HIT)とその原因をさぐる有効な手段は、まずは『食事日記』です。
『食事日記』をつけて、何を食べて、いつ症状が出たかを確認していきます。
その次は『除去食試験』を2~4週間やってみます。
徹底して低ヒスタミン食にして、症状が劇的に改善するかを見てみます。これで改善するようであれば、ヒスタミン不耐症(HIT)の診断の根拠になります。
『除去食試験』で改善したら、ヒスタミン不耐症(HIT)の可能性が疑われ、DAO(ジアミン酸化酵素)の不足・機能低下がどこからきてるのかを探り、炎症性腸疾患 (IBD)やセリアック病などの器質的疾患でないことを確認します。
上部・下部消化管内視鏡(生検)で、腸粘膜の構造で、絨毛の萎縮や炎症などのびらんがみられた場合、粘膜の最表面がダメージを受けているという「結果」が出ている状態です。
重要なのは「なぜびらんが起きているのか?」という「原因」を特定することで、それによりヒスタミン不耐症(HIT)の根本解決に直結していきます。
「びらん」があるということは、腸粘膜の最表面が剥がれ落ちたり傷ついたりしている状態で、その部分の絨毛の先端部にDAO(ジアミン酸化酵素)が存在しています。
つまり、多少であってもヒスタミンを分解してくれるDAO(ジアミン酸化酵素)の生産工場の壁が壊れている状態です。
そこで、それが「一時的な火傷(刺激物の摂取)」なのか、「構造的な欠陥(自己免疫疾患)」なのか、「外部からの攻撃(細菌増殖)」なのか、検査で突き止めます。
何が原因なのかによって、対応が変わってきます。
低ヒスタミン食で劇的に改善すれば、一時的な刺激やストレス、リーキーガットの可能性が高くなってきて、その場合は、以下に示す「抗組織トランスグルタミナーゼ(tTG)抗体」、「便中カルプロテクチン」は正常になります。
① 抗組織トランスグルタミナーゼ(tTG)抗体
絨毛萎縮(DAO産生場所の消失)を疑う際の第一選択肢として重要です。
まずは「IgA型」のtTG抗体を測定するのが一般的です。
ただし、IgA欠損症の場合は偽陰性になるため、IgG型や「抗デオミド化グリアジンペプチド(DGP)抗体」も組み合わせて検討されたりもします。
これは免疫が自分を攻撃する際、小腸にある「組織トランスグルタミナーゼ(tTG)」という酵素を敵と見なして攻撃しているかどうかをみる検査になります。
血液中に「抗tTG抗体」がたくさんあれば、セリアック病の可能性が高いというバイオマーカーになります。
つまり、グルテンなどに対する反応で慢性的にびらんが起きている状態になるので、原因であるグルテンを除去(グルテンフリー)にしない限り、いくら低ヒスタミン食を続けてもDAOは回復しません。
② 便中カルプロテクチン
腸管の炎症を反映する感度が非常に高く、過敏性腸症候群(IBS)との差別化に必須の試験項目になっています。
日本では、潰瘍性大腸炎やクローン病の診断・モニタリングにおいて保険適用になっている標準的な臨床指標です。
もしカルプロテクチンが高値に出るのであれば、過敏性腸症候群(IBS)の可能性が高く、その場合は抗炎症治療が優先となります。
③ L/M試験(ラクトース・マンニトール試験)
分子サイズの大きいラクトースは、本来腸管の隙間(タイトジャンクション)を通り抜けできません。
一方分子サイズの小さいマンニトールは、健康な腸であれば細胞自体を通過して一定量が吸収されます。
このラクトースとマンニトールの尿中回収率の比率を見ることは、腸の透過性(Permeability)を測る「ゴールドスタンダード」といわれています。
正常であれば、小さい分子のマンニトールは検出されるけど、大きい分子のラクトースはほとんど検出されません。
もし、リーキーガットであれば、本来、腸管の隙間(タイトジャンクション)を通れないはずの「ラクトース」が尿中から多く検出されるのでわかります。
④ ゾヌリン(Zonulin)試験
ゾヌリンは、腸管の細胞同士を密着させているタイトジャンクションの「開閉」を調節する唯一のタンパク質です。
リーキーガットで腸粘膜の細胞が刺激を受けていると、ゾヌリン(タンパク質)が大量に放出されます。
これが細胞の受容体に結合すると、タイトジャンクションを繋ぎ止めている腸管の細胞同士結合が緩み開くので、血中や便中のゾヌリンの濃度が高値にでてきます。
DAO(ジアミン酸化酵素)は、その活性のためにビタミンB6、ビタミンC、銅を補酵素として必要とします。
そのためこれらが不足していると、たとえ粘膜が健康でも、DAOが十分に働けないため、ヒスタミン不耐症の症状がでてくるので、対策として重要です。
① 血清銅(Cu)/ 亜鉛(Zn)比
銅はDAOの活性中心に含まれる必須ミネラルです。
一方、銅と亜鉛は拮抗する関係にあるため、その比率が崩れるとDAOの活性が低下してしまいます。
血清銅(Cu)/ 亜鉛(Zn)比の理想的な比率は、0.8~1.2とされています。
銅(Cu)は、約70~110μg/dL
亜鉛(Zn)は、約80~120μg/dL
銅が低すぎると、DAOの構造そのものが不安定になり、ヒスタミンを分解できなくなります。
逆に銅が高すぎ、亜鉛が低いのは、炎症やストレスがある時に多く見られるパターンで、逆に酸化ストレスが増大し、腸粘膜を傷つけ、結果的にDAO活性を下げてしまいます。
② ビタミンB6レベル
ビタミンB6は、DAOがヒスタミンを化学的に変化させる際の補酵素(助っ人)として不可欠なビタミンです。
不足すると、たとえ粘膜が健康であっても、DAOが十分に働けなくなってしまいます。
『血清DAO活性検査』は、今、血液中にどれくらいDAO(ジアミン酸化酵素)が働いて、実際にヒスタミンを分解する能力をもっているかを測定する試験になります。
遺伝子に問題がないのにこの値が低い場合は、リーキーガットや炎症などによって腸粘膜の損傷が起こっていて分泌が減っていることが疑われます。
LISA法(酵素結合免疫吸着測定法)やRIA法(放射免疫測定法)を用いて、血清中のDAOの量または活性(分解速度)を測定します。
判定の基準としては、ヒスタミン分解の活性値が、10U/mL以上であれば正常、3~10U/mLであればヒスタミン不耐症の疑いあり、3U/mL未満だとヒスタミン不耐症の可能性が極めて高いということになります。
<コラム>
直接DAO活性がわかるのならば、すぐに血清DAO活性検査をしてしまえば一発ではないかと考えられがちですが、実際にはそうしないのには理由があります。
臨床現場では、いきなり血清DAO活性検査をするよりも、先に「低ヒスタミン食」による診断的治療が優先されるケースがほとんどだと思います。
血清DAO活性検査は、保険適用外で、医療機関によりますが、1回あたり数千円~1万数千円程度かかることが多いことに加え、一般的な検査センターですぐに測定できる項目ではなく時間がかかります。
また、この検査でみているのは血清中のDAOであり、この値が正常であっても腸粘膜での分泌が不十分で症状が出るケースが偽陰性となってしまい、必ずしも数値と症状と一致しません。
さらにDAO値は食事や生活習慣により常に変動するので、1回の採血で判断するのは難しい部分もあります。
内視鏡検査(大腸カメラ・小腸生検)
実際に腸の粘膜をカメラで見たり、組織を採って炎症や損傷がないか確認します。
粘膜の炎症、びらん、潰瘍の有無、小腸の絨毛の平坦化・萎縮の程度がわかります。
SIBO(小腸内細菌増殖症)呼気検査
菌が少ないはずの小腸で細菌が過剰増殖し、ヒスタミン産生や粘膜刺激の原因になっていないかを調べる検査で、ラクツロースやグルコースなどの糖液を服用した後、一定時間後に吐いた息の中に含まれる水素ガス・メタンガスを調べます。
細菌が過剰に増殖しているSIBOの状態だと、これらのガスの値が高くなります。
ヒスタミン不耐症を考えるとき、何を食べたら症状が出てくるのだろう?
もし食べてから症状がでてくる時間がわかれば、何がいけなかったのかすぐわかるかも?
こうしたことから、原因の食材を食べてから症状がでてくるまでの時間を知りたいと思う人もいるかもしれませんが、実際に症状が現れるのは、食後30分~4時間に症状が多く表れてきます。
IgEが介在する食物アレルギーでは食後数分〜15分以内に激しく症状が現れますが、『ヒスタミン不耐症』は、それより少し遅れて、ダラダラと続くという違いがあります。
食べたものが胃から小腸へ移動するまでの時間が、液体や軽い食事なら30分程度ということで反応が始まります。
そしてその後、小腸で吸収されたヒスタミンが血流に乗り、全身のヒスタミン受容体(H1, H2など)に結合してピークに達する時間が1~2時間ということになります。
1回の食事で即座に症状が出る人もいれば、消化が進んで血中濃度が『バケツ理論』でいう「バケツのしきい値」を超えた4時間後あたりに症状が出てくるケースもあります。
しかし、4時間すぎて、半日~1日経って症状がでてくる場合も十分あります。
食べたものが大腸に到達するまでは半日~1日ほどかかりますが、腸内環境が悪く、ヒスタミンを産生する菌が多い場合は、未消化のタンパク質が腸内細菌によって分解される過程で改めてヒスタミンが発生し、それが翌日に症状を引き起こしていることも十分に考えられます。
<参考文献>
ヒスタミンとヒスタミン不耐症
Histamine and histamine intolerance
Am J Clin Nutr. 2007 May;85(5):1185-96
薬の中には、DAO(ジアミン酸化酵素)やヒスタミンに影響を与える可能性のある薬剤もあります。
代表的なものを以下にあげました。
鎮痛剤:アセチルサリチル酸、メタミゾール、モルヒネ、非ステロイド性抗炎症薬、ペチジン
抗不整脈薬:プロパフェノン
抗生物質:セフロキシム、セフォチアム、イソニアジド、ペンタミジン、クラブラン酸、クロロキン
抗うつ剤:アミトリプチリン
抗真菌剤:ペンタミジン
降圧剤:ベラパミル、アルプレノロール、ジヒドララジン
降圧剤:ドブタミン
抗マラリア薬:クロロキン
気管支溶解薬:アミノフィリン
細胞増殖抑制剤:シクロホスファミド
利尿薬:アミロリド
H2受容体拮抗薬:シメチジン
局所麻酔薬:プリロカイン
運動促進剤:メトクロプラミド
粘液溶解剤:アセチルシステイン、アンブロキソール
筋弛緩剤:パンクロニウム、アルクロニウム、D-ツボクラリン
麻薬:チオペンタール
放射線造影剤
ビタミン:アスコルビン酸、チアミン
<参考文献>
腸管に起因するヒスタミン不耐症
Histamine Intolerance Originates in the Gut
Nutrients. 2021 Apr 12;13(4):1262.