

ヒスタミン不耐症(HIT)における、ディスバイオシス(腸内細菌叢の乱れ)と腸管バリア機能障害(リーキーガット)は、症状を悪化させる重要な要因として深く関連しています。
『ヒスタミン不耐症(HIT)』は、消化器症状が現れますが、出てくる症状によって『腹部膨満型』、『下痢型』、『混合型』というように分けることができます。
実は、同じ『ヒスタミン不耐症(HIT)』の典型的な症状といっても、「食後すぐの膨満感」があるのと「下痢」があるのとでは、その発生メカニズム・病態、背景にある原因が明確に違っているのです。
ヒスタミン不耐症の患者133人の症状を評価した結果、みられた胃腸症状では、膨満感が92%、便秘が55%、腹痛が68%、下痢が71%、食後の満腹感が73%に見られています。
<参考文献>
Schnedl, WJ; Lackner, S.; Enko, D.; Schenk, M.; Holasek, SJ; Mangge, H.
ヒスタミン不耐症における症状および症状の組み合わせの評価
Evaluation of symptoms and symptom combinations in histamine intolerance
Intest. Res. 2019,17,427-433.
ヒスタミン不耐症は、体内でヒスタミンを分解するDAO(ジアミン酸化酵素)の活性低下が原因で起こってきますが、『ディスバイオシス(腸内細菌叢の乱れ)』はこの酵素活性やヒスタミン量に大きく影響を与えます。
腸内の特定の細菌(悪玉菌)の中には、アミノ酸からヒスタミンを生成する能力を持つヒスタミン産生菌がいます。
『ディスバイオシス(腸内細菌叢の乱れ)』によりヒスタミン産生菌が増殖すると、腸管内のヒスタミン量が過剰になり、一方腸内細菌のバランスが崩れることで生じる代謝産物や炎症により腸粘膜で分泌されるDAOの働きが阻害されて、さらに外因性ヒスタミンの分解能力を低下させてしまいます。
腸内環境との関連については、例数は少ないのですが、ヒスタミン不耐症患者8名と健常者10名を対象に、糞便中の細菌叢を比較した研究が行われています。
それによると、ヒスタミン不耐症の患者では、特にビフィズス菌科(Bifidobacteriaceae)の割合が顕著に低く、腸壁の保護に寄与する酪酸産生菌(Butyricicoccus属など)も減少していました。
一方、炎症や病原性と関連の深いプロテオバクテリア門が有意に増加していて、さらにヒスタミン産生能を持つStaphylococcus属やEnterobacteriaceae科の割合が高い傾向になっていました。
<参考文献>
腸管に起因するヒスタミン不耐症
Histamine Intolerance Originates in the Gut
Nutrients. 2021 Apr 12;13(4):1262.
ヒスタミン不耐症の患者(8名)と健康な対照群(10名)を対象に、糞便中の細菌叢を比較したところ、ヒスタミン不耐症(HIT)の消化器症状は、実際には「ヒスタミンがどこで、どの受容体を介して、どの腸管機能を強く乱すか」で出方が変わります。
ヒスタミン不耐症では、腸管内のヒスタミン分解が追いつかず、腸の運動、分泌、知覚、腸内細菌環境がまとめて影響を受けます。
その結果、膨満感、下痢、腹痛、吐き気、便通異常が単独または組み合わさって現れます。
このタイプは、主症状が「食後の張り」「ガスがたまる感じ」「腹囲の増加」で、下痢よりも膨満感が前面に出ます。
原因としては、腸管でのヒスタミン蓄積に加えて、腸運動の乱れや腸内発酵の増加、SIBOのような細菌異常増殖が関与しやすいと考えられます。
病態としては、内臓知覚過敏(Visceral Hypersensitivity)として知られるヒスタミンが腸の知覚を過敏にして「実際のガス量以上に張りを強く感じる」ことと、腸管の運動異常でガス排出がうまくいかないことが重なります。
Methanobrevibacter smithii(メタン生成古細菌)などのメタンガスを産生する腸内細菌は、腸管の神経系に作用し、蠕動運動を抑制するため、ガスが排出されずに滞留し、持続的な腹部膨満感を引き起こします。腸管通過が遅れることで、食物中のヒスチジンが細菌に曝露される時間が増えるため、腸内でのヒスタミン生成量が増加してしまいます。
<参考文献>
呼気検査におけるメタン濃度は便秘と関連している:系統的レビューとメタ分析
Methane on breath testing is associated with constipation: a systematic review and meta-analysis
Dig Dis Sci. 2011 Jun;56(6):1612-8
このタイプは、食後しばらくしてからの軟便、水様便、便意切迫が目立ちます。
原因は、ヒスタミンが腸管の分泌を促し、水分吸収よりも分泌が優位になりやすいこと、さらに腸の運動が速くなって便が十分に固まらないことです。
病態としては、運動亢進に関与するH1受容体、水分分泌に関与するH2受容体の両受容体を介した胃腸症状や、腸粘膜の炎症・透過性亢進による腸管バリア機能障害(リーキーガット)が重なり、下痢が起こりやすくなります。
Enterobacteriaceae(大腸菌や肺炎桿菌などの腸内細菌科:グラム陰性菌)などの水素ガスを発生する腸内細菌が小腸で過剰増殖すると、発生した水素ガスによる急速な発酵によって腸管内の浸透圧が上昇し、水分が引き込まれ、腸の蠕動運動を加速し下痢を引き起こします。
さらにこれらの菌がヒスタミンも産生することいより、ヒスタミン曝露がさらにこの下痢症状を悪化させてしまいます。
<参考文献>
小腸内細菌増殖症:診断、予防、治療法に関する包括的なレビュー
Small Intestinal Bacterial Overgrowth: Comprehensive Review of Diagnosis, Prevention, and Treatment Methods
Cureus. 2020 Jun 27;12(6):e8860
このタイプは、膨満感と下痢が同じ人に出る、あるいは時期によって入れ替わるパターンです。
原因は、ヒスタミン累積量(閾値)細菌叢の構成バランスによる変動に加えて、食事内容、ストレス、腸内細菌叢、月経周期、薬剤などで症状の出方が揺れるためです。
| タイプ | 目立つ症状 | 主な機序 | 典型的背景 |
|---|---|---|---|
| 腹部膨満型 | 食後の張り、ガス貯留感、腹囲増加 | 腸運動低下、腸内発酵、知覚過敏 | SIBO、食後増悪、発酵食品や高ヒスタミン食で悪化 |
| 下痢型 | 軟便、水様便、便意切迫 | 腸液分泌亢進、蠕動亢進、吸収不全 | 食後すぐ悪化、ストレスで増悪 |
| 混合型 | 膨満と下痢が併存または交互 | 分泌・運動・知覚の複合異常 | 症状の波が大きい、誘因が複数 |
【注意】
現時点では、特定のプロバイオティクス菌株がヒスタミン不耐症のガス産生を確実に抑制するという、大規模RCT(ランダム化比較試験)に基づくメタ分析は未確立の状態です。
したがって「この菌がいれば必ず下痢型になる」といった特定の菌種と症状の1対1対応は、個人差が大きく完全には解明されていないのが現状です。
またDAO数値が低いほどメタンガスが増えるといった、酵素活性と特定のガス生成量を直接結びつけたメタ分析もありません。
現段階では、まだ腸内細菌の異常がヒスタミン不耐症を引き起こすのか、あるいはDAO欠損によるヒスタミン過剰が細菌叢を変化させるのか、その因果関係は完全には解明できていないのが現状です。
ヒスタミンは、アミノ酸ヒスチジンの脱炭酸により生成されます。
欧州連合では、生魚のヒスタミン含有量を最大200 mg/kg、魚介類製品のヒスタミン含有量を最大400 mg/kgとしています
また調理、燻製、冷凍はヒスタミンに影響を与えますが、除去するわけではないため、腐敗した食品によってもサバ中毒が発生する可能性があります
過敏性腸症候群(IBS)患者の80%は、ヒスタミンを含む食物が消化器症状の引き金になっています。
| カテゴリ | 科学的信頼度 | 主な内容・影響 |
|---|---|---|
| 高ヒスタミン食 | 高 | 発酵食品・熟成食品:チーズ、ワイン、サラミなどの発酵肉、加工魚介類、発酵野菜(キムチ、ザワークラウト)は、製造・保存過程で微生物が増殖するため、高ヒスタミン含有食品。ほうれん草、トマト、ナスなどは、植物自体にヒスタミンが含まれている。症状を誘発する主要因。 |
| アルコール | 高 | エタノールおよびその代謝物(アセトアルデヒド)はDAO活性を強力に阻害する。またアルコール自体が腸管透過性を高めてヒスタミンの吸収を促進する。 |
| ヒスタミン遊離物質 | 低(不明) | 卵白、貝類、イチゴ、柑橘類など。 食品自体にはヒスタミンが少ないが、体内のマスト細胞からヒスタミンの放出を促すという理論的な仮説はあるが、臨床的なエビデンスは不足している。 |
魚介類については、特に赤身魚(マグロ、カツオ、サバ、サンマなど)は、体内でヒスタミンに代わるヒスチジンというアミノ酸を多く含む魚介類です。
ヒスタミン不耐症という観点で考えると、「菌の増殖抑制」と「酵素の失活」の2つが重要です。
魚の場合、筋肉中に含まれる遊離アミノ酸のヒスチジンが、ヒスタミン生成菌が産生するヒスチジン脱炭酸酵素(HDC)という酵素の働きでヒスタミンへ変換されます。
ここで重要なのが、一度生成されたヒスタミンは、加熱調理(焼く、揚げる、煮る)をしても分解されず、冷凍しても毒性は消えないということです。
そのため、「作る前の予防」が唯一の対策なのです。
水、コーヒー、紅茶、許可された果物と野菜で作った自家製ジュース
パン、ペストリー、ジャガイモ、米、パスタ、穀物、キビ、ソバ、トウモロコシ
ヨーグルト、フレッシュソフトチーズ
レタス、カリフラワー、ブロッコリー、チコリ、ニンジン、ニンニク、タマネギ、キュウリ、カボチャ、ズッキーニ、ピーマン、ラディッシュ、アーティチョーク、ルバーブ、アスパラガス
リンゴ、洋ナシ、サクランボ、アマレル、桃、杏、スイカ、ブルーベリー
スパイス、ハーブ
植物油、酢
生鮮/急速冷凍肉:鶏肉、仔牛肉、牛肉、ラム肉、豚肉
生鮮/急速冷凍魚:タラ/スケトウダラ、マス、パイクパーチ、オヒョウ
ハム(生ハム、調理済みハム、高品質)、卵(調理済み)
許可された果物、蜂蜜、バター、マーガリンで作ったジャム
<参考文献>
ヒスタミン不耐症―知れば知るほど、分からなくなる。レビュー
Histamine Intolerance—The More We Know the Less We Know. A Review
Nutrients. 2021 Jun 29;13(7):2228.
作る前の予防・対策としては、温度管理・汚染の防止・鮮度です。
温度管理は菌の増殖抑制対策として重要です。
Morganella morganiiなどのヒスタミン生成菌の多くは、20℃~37℃の室温付近で活発に増殖して急速にヒスタミンを生成します。
一方、5℃以下であれば菌の増殖を大幅に抑制することができます。
ただし、Photobacterium phosphoreumなどの菌では、4℃前後でもヒスタミンを生成することが報告されていますので、可能な限り0℃に近い所での保存が有効です。
FDA(米国食品医薬品局)のガイドラインでは、ヒスタミン蓄積を防ぐために「漁獲直後からの急速冷却」と「4.4℃以下での保管」を厳格に求めています。
汚染の防止も大切です。
ヒスタミン生成菌はもともと海水中に存在したり、魚のえら、内臓に付着しています。
魚は死後、菌が内臓から身へと移行するので、鮮度が良いうちに内臓を取り除き、腹腔内を洗浄することが菌数減少に有効です。
また調理器具や手指を介して、他の汚染源から菌が付着する二次感染にも注意が必要です。
鮮度はいうまでもなく重要です。
貯蔵温度が低ければ低いほど、ヒスタミン蓄積は遅れますが、時間の経過とともに、低温であっても微量の酵素反応が進む可能性もあります。
作り置きは、特にヒスタミン不耐症のリスクになります。
なぜならば、調理後の食品を冷蔵保存している間、空気中や食材に付着した細菌がヒスタミンを生成し続けているからです。
4℃前後で冷蔵保存したとしても、Psychrotolerant bacteriaなどの低温細菌は活動できるため、数日間の保存でヒスタミン濃度がかなり多くなり、過敏な人には症状が出るレベルまで上昇することがあります。
したがって、低ヒスタミン食の基本原則は、「新鮮な食材を調理し、すぐに食べる(Freshly cooked food)」ことが重要です。
<参考文献>
ヒスタミン不耐症―知れば知るほど、分からなくなる。レビュー
Histamine Intolerance—The More We Know the Less We Know. A Review
Nutrients. 2021 Jun 29;13(7):2228.
家庭用冷凍庫の通常モードでは、凍結するまでの間に菌が活動する時間を与えてしまいます。
可能な限りアルミトレイに乗せる、または金属製の冷凍室を活用し、急速に−18°C以下に下げるなど急速冷凍(急速凍結)が推奨されます。
室温解凍はリスクが高く厳禁です。なぜなら解凍時に表面温度が上昇すると、菌が爆発的に増殖してしまうからです。冷蔵庫内での低温解凍か、凍ったまま直接加熱調理が、ヒスタミン上昇を抑えるための標準的な手法です。
精神的・肉体的ストレスは、アレルギー反応がない状態でも体内のヒスタミンレベルを上昇させることが研究で示されています。
ストレスを感じると、脳の視床下部からCRH(副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン)が分泌されます。
マスト細胞の表面にはこのCRH受容体が存在していて、ストレス信号を直接受け取ることでヒスタミンを放出することがわかっています。
特に皮膚や腸管、脳内のマスト細胞はストレスに敏感であり、これがストレスによる「じんましん」や「過敏性腸症候群(IBS)」、ストレス性頭痛の悪化に関与していると言われています。
<根拠論部>
病原体に対する防御における肥満細胞の役割
The Role of Mast Cells in the Defence against Pathogens
PLoS Pathog. 2012 Apr 26;8(4):e1002619.
<参考文献>
マインドフルネス瞑想と免疫系:ランダム化比較試験の系統的レビュー
Mindfulness meditation and the immune system: a systematic review of randomized controlled trials
Ann N Y Acad Sci. 2016 Jun;1373(1):13-24.