
厚生労働省は、便秘の有訴者数(便秘であると思っている人の数)を調査して、国民生活基礎調査として発表をしています。
このデータはあくまでも自分が便秘であると思っている人の数であり、実際に便秘である人とは違いますので、便秘の人の数を正確に表しているわけではありませんが、歳とともに自分は便秘であると考えている人が増えてきていて、高齢になると男女であまり差がなくなってきているという傾向をみるという点である程度有効です。
2017年に日本で初めて『慢性便秘診療ガイドライン』というものが作成されました。
その『慢性便秘診療ガイドライン』の中では、便秘の症状を「排便回数減少型」と「排便困難型」に分類しています。
一般的には『便秘』というと、何日間もウンチが出ない状態あるいは便秘が来ない状態である「排便回数減少型」というイメージがあります。
一方、「排便困難型」は、肛門付近の直腸まで便がきているんだけど、そこから便が出せないといった感じの便秘を言います。
便秘といえば、今までの分類法は、器質性便秘や機能性便秘にわけて分類されていました。
器質性便秘
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大腸がん、大腸憩室、虚血性腸炎などの大腸狭窄が原因の便秘
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症候性便秘
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パーキンソン病、甲状腺機能低下症、多発性硬化症、脳梗塞後遺症などの基礎疾患が原因の便秘
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薬剤性便秘
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抗うつ薬、抗コリン剤、フェノチアジン系薬剤、モルヒネといった腸管の蠕動運動を抑制する薬剤が原因の便秘
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機能性便秘
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食事性便秘
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繊維の少ない偏った食事や少食などが原因。治療としては、繊維の多い野菜や果物などを意識的に多く摂取する。
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直腸性便秘(習慣性便秘)
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度重なる排便刺激の無視や、下剤・浣腸の誤用や乱用などが原因。直腸に便が到達してもうまく排便できなかったり便意が生じなかったりすることによっておこる便秘で、直腸に便が貯留します。治療としては、規則的な排便習慣を身につけることが大切。
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弛緩性便秘
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大腸の緊張低下、大腸の運動鈍化、腹筋力の衰えなどで排便時十分な腹圧がでないことによる便秘。 Auerbach神経叢の興奮低下によって腸全体の弛緩によって腸管の蠕動低下が起こる便秘で、腹部膨満感の症状が多く、腹痛は少ない。治療としては繊維の多い食事と適度な運動、ネオスチグミン系薬剤や膨潤性下剤を使用する。
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痙攣性便秘
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副交感神経の過緊張などによって腸管特にS字結腸が過緊張になり弁の移送が妨げられることが原因。過敏性腸症候群。腹痛や腹部不快感が症状として多く、排便によって症状が軽くなる。治療は、消化管運動調節薬や抗不安薬などを使用する。
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原因分類
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症状による分類
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分類・診断のための検査方法
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専門的検査による病態分類
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原因となる主な疾患・病態
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器質性
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狭窄性
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大腸内視鏡検査、注腸造影検査など
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‐
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大腸がん、虚血性大腸炎、クローン氏病
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非狭窄性
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排便回数減少型
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腹部単純X線検査、注腸造影検査など
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巨大結腸症
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排便困難型
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排便造影検査など
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器質性便排出障害
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直腸瘤、直腸重積、巨大直腸症、小腸瘤、S状結腸瘤
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機能性
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‐
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排便回数減少型
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大腸通過時間検査など
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大腸通過遅延型
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特発性・症候性:代謝・内分泌疾患、神経・筋疾患、膠原病、便秘型過敏性腸症候群
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大腸通過正常型
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食物繊維摂取不足
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排便困難型
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大腸通過時間検査、排便造影検査など
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便秘型過敏性腸症候群(便が硬くなり排便困難や残便感)
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排便造影検査など
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機能性便排出障害
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骨盤底筋協調運動障害、腹圧低下、直腸知覚低下、直腸収縮力低下
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「便秘」という言葉は「症状」ではなく「状態」を表しています。
3日に1回でも週に1回でも、それしか便が出なくても、そのことで困っていなければ排便回数自体はあまり問題ではないということになります。
しかし、通常は普通に食事をしているならば、週に1回しか排便がないというのなら腹痛,腹部膨満,硬便による排便困難などいろいろな問題が生じてくるはずです。そしてこの問題が生じてきている場合が、排便回数減少型(Infrequent Bowel Motions)の便秘となります。
これに対して、毎日お通じがあっても便を出すときに排便困難や残便感などで困っているというケースもあります。これが排便困難型(Difficulty Evacuating)です。
便秘を判断する場合、排便回数が減ったことによって困っているのか、それとも排便時に便が出しづらくて困っているのか、あるいはその両方なのかということを区別することが重要になってきます。