

『トリガーポイント(TP)』ができる原因は、ひとつだけではありません。
筋肉への過剰な負荷、繰り返し動作、長時間同じ姿勢を続けることや、筋肉の損傷など、さまざまな要因が関係していると考えられています。
そして『トリガーポイント(TP)』ができる原因を考えるときに重要なキーワードがあります。
それが『ATP(アデノシン三リン酸)』です。
まずは、『ATP(アデノシン三リン酸)』から説明すると、実は高校の生物の授業にでてきています。
平たくいうと、ATPは「筋肉を動かすために細胞が使うエネルギー通貨」になります。
ATPの構造は、アデノシンに3個のリン酸がくっついた構造になっていますが、そこからリン酸が外れるときにエネルギーが放出され、そのエネルギーが生命活動に利用されます。
『ATP(アデノシン三リン酸)』は「筋肉を動かすために細胞が使うエネルギー通貨」として、筋肉の収縮・弛緩にも欠かせないのです。
したがってこの『ATP(アデノシン三リン酸)』が不足してくると問題になってくるのです。
普通に筋肉が一時的にギュッと収縮するだけなら、それほど問題にはないのですが、筋肉が長時間緊張・収縮した状態が続くと、筋肉内部の血管が圧迫され、局所の血流が低下した状態である『虚血(きょけつ)』を引き起こしてしまいます。
つまり、組織に十分な血液が届かなくなっってしまった状態になってしまいます。
すると、酸素や栄養素とともに『ATP(アデノシン三リン酸)』も十分に届きにくくなり、乳酸などの代謝産物などが局所に蓄積しやすくなります。
蓄積した代謝産物が、さらに局所を刺激して、さらに強い痛みや筋収縮を引き起こすという悪循環が起こってしまい、コリや痛みが固定化してしまう原因にもなるのです。
筋肉が過剰に緊張した状態では、局所の化学的環境が変化しています。
『トリガーポイント(TP)』を圧迫すると痛みを感じるのは、筋肉が持続的に収縮する結果、痛覚神経線維が活性化されるからです。
筋肉が持続的に収縮すると内圧が高まり、毛細血管が圧迫されて「局所的な虚血(血流不足)」が起こります。これにより酸素不足に陥り、乳酸、カリウム等の代謝産物や、ブラジキニン、ヒスタミン、プロスタグランジンなどの炎症・発痛物質が排泄されずにその場へ留まります。
これらの化学物質は、C線維などの痛覚受容器の受容体に結合し、軽い圧迫など通常なら痛まないくらいの弱い刺激でも痛みの信号を送りやすい状態へと変化させます。
これがトリガーポイント特有の押したときの強い痛みの正体です。
『トリガーポイント(TP)』の大きな特徴のひとつに『関連痛(referred pain)』があります。
『関連痛』とは、実際の原因となっている場所とは違う場所に感じる痛み、つまり『トリガーポイント(TP)』がある場所とは違う領域に発生する痛みのことです。
つまり「痛いところ=痛みの発生源」とは限らないのです。
例えば、太ももの筋肉にできた『トリガーポイント(TP)』が原因で、膝のお皿のまわりの痛みや、膝がカクッと抜けるような症状を引き起こすことがあります。」
どういうことかというと、膝が痛いとき、「膝の関節がすり減っているのかな?」と思いがちですが、実際にはその上の大腿四頭筋などの太ももの筋肉にできた『トリガーポイント』が原因であることがよくあるのです。
太もものしこりから発せられた痛みの信号が神経を伝って、少し離れた「膝のお皿周辺」にドーンと響くような関連痛として現れるため、膝の病気だと勘違いしてしまうのです。
もう一つ例をあげると、ふくらはぎの筋肉にできた『トリガーポイント』が原因で、かかとの激しい痛みや、足の裏全体のズキズキとした症状を引き起こすことがあります。
そこから少し離れたヒラメ筋や腓腹筋などのふくらはぎの筋肉にできた『トリガーポイント』になっていて、ふくらはぎのしこりが、アキレス腱の方へ向かって「かかとや足の裏の痛み」という関連痛を飛ばすため、足裏をいくらマッサージしても治らないということがあるのです。
それでは、なぜ離れた場所が痛くなるのでしょうか?
その仕組みの説明としてよく使われているのが『収束-投射説』です。
例えば、筋肉Aから来た痛みの信号と筋肉Bから来た痛みの信号が、脊髄の中で似たような神経経路に「収束」するとします。
すると、脳はその信号が、「筋肉Aから来たのか? 筋肉Bから来たのか?」を正確に区別できない場合がでてきます。
その結果、実際の痛みの発生源とは違う場所に痛みを感じるという説です。
セルフケアとして『トリガーポイント(TP)』を考える場合、まずは筋肉の状態をやさしく触ってみます。
ポイントは、
① 筋肉の中に硬い部分がないか?
周囲と比べて「ここだけ硬い」「細長い筋のように硬い」という場所がないか探します。
② 押すと特徴的な痛みがあるか?
単に「痛い」だけではなく、いつもの症状に近い痛みが再現されるかを確認します。
③ 離れた場所に痛みが出ないか?
押した場所とは別のところに「いつもの痛み」が広がる場合があります。
これが関連痛です。
④筋線維を「横切る」ように触ってみる
指の腹を使って、筋線維を横切るようにゆっくり滑らせると、周囲と硬さの違う部分を見つけやすくなる場合があります。
また『局所単収縮反応(local twitch response)』といって、『トリガーポイント』周辺では、筋肉がピクッと反応する現象がみられることがあります。
もちろん、これが起こらなければトリガーポイントではない、という単純なものでもありません。

『トリガーポイント(TP)』が見つかったら、いよいよケアをしていきます。
押し方は、親指または人さし指を使い、体の表面に対して垂直にまっすぐ押圧します。
1回につき約3~4秒押したら、一気に指先を離します。
押すことであえて一時的な虚血状態をつくり、一気に血流を再開させることで、発痛物質を押し流し、筋肉の緊張をほぐします。
『トリガーポイント(TP)』を押すとき、「痛いほど効く!」と思って、思い切りグリグリ押す人がいますが、これはおすすめできません。
なぜならば、強すぎる刺激は筋肉や周囲の組織を傷めたり、刺激によって痛みを悪化させたりする可能性があるからです。
基本は、「痛みを我慢して押し続ける」のではなく、身体の反応を確認しながら、無理のない刺激にすることが大切です。
『トリガーポイント(TP)』のケアはとても効果的ですが、やり方を間違えると逆効果になることもあります。
① 身体を適度に温めてから施術を始める
身体が冷えた状態での施術はNGで、筋肉が冷えてかたくなっているときに無理に押したりすると、かえって症状が悪化することもあります。
気温が低い冬はとくに注意しましょう。お風呂上がりなどがおススメです。
② 筋肉の緊張を緩めてから施術する
治療を受ける人の緊張を解いてから施術をしていきます。
③ 刺激を与えすぎないように気をつける
強い力で刺激を加える施術は避けるようにします。
1カ所を長時間(1分以上)圧迫し続けたりしないようにします。
④ 重い疾患や外傷がある部位は避ける
けがや病気がある人への施術は避けるようにします。
⑤ 1回の治療で多くの部位に施術しないようにします。
同時にさまざまな部位を押さえると、問題にしている症状に対し、どの部位で効果があったのかがわかりにくくなってしまいます。
『トリガーポイント(TP)』のケアは、あくまでもセルフケアで、特に次のような場合は、自己判断で押したり揉んだりせず、医療機関への相談を優先するようにしてください。
『トリガーポイント(TP)』も『経穴(ツボ)』も、身体の特定の部位にアプローチして痛みや不調を改善するという点で似ていますが、その歴史的背景や理論、定義は明確に違っています。
| 比較項目 | トリガーポイント (Trigger Point) | 経穴 (Keiketsu / ツボ) |
|---|---|---|
| 定義・概念 | 筋筋膜内にできる、持続的に収縮した筋繊維の硬結(コリの塊)。痛みの引き金になる。 | 東洋医学(中医学・鍼灸)における、気血の通り道である「経絡」上に位置する特異的な反応点。 |
| 発見・歴史 | 現代医学(主にアメリカの医師ジャネット・トラベルら)によって1940年代以降に提唱・体系化された。 | 数千年前の古代中国に端を発し、伝統的な経験則に基づいて体系化・発展してきた。 |
| 主な発生部位 | 骨格筋(筋肉)の実質、筋膜、腱の接合部など、身体全体のあらゆる筋肉に生じる可能性ある。 | 全身の経絡上、体表や皮下組織、筋肉の間などに存在。 |
| 触診時の特徴 | 米粒大から指先大の硬いしこり(硬結)として触知される。非常に強い圧痛がある。 | 正常時は特に変化がないこともあるが、不調時には圧痛、硬結、皮膚の冷えやむくみとして現れる。 |
| 刺激に対する反応 | 押すと、離れた場所に痛みが響く「関連痛(Referred Pain)」が特徴的に現れる。 | 押すと「得気(とっき)」と呼ばれる特有の響き(重だるさ、心地よい刺激感)が生じることが多い。 |
| 治療・アプローチ法 | トリガーポイントへの圧迫、鍼治療(トリガーポイント鍼)、ストレッチなど。 | 鍼、灸、指圧、マッサージ、温熱療法など。 |
| 目的・適応症状 | 筋肉のコリ、慢性的な筋・筋膜性疼痛、関節可動域の改善、局所および関連する痛みの緩和。 | 気血の巡りの調整、内臓機能の調和、全身のバランス回復、自然治癒力の向上、様々な不定愁訴の改善。 |
『トリガーポイント』は、解剖学・生理学などの現代医学に基づき、筋肉の過緊張や硬結(コリ)によって生じる痛みの引き金を指しています。
筋肉の過負荷や微小外傷、それらに伴う局所の循環・代謝異常など、筋・筋膜系の機能異常との関連から説明される概念になっています。
押すと離れた場所に響く「関連痛」が出ることもあるのも特徴の一つです。
『経穴(ツボ)』は、東洋医学・中医学の経絡理論に基づき、全身の気血の通り道に存在する反応点になります。気の巡りや内臓機能の調整、全身のバランス回復を目的として使われます。
解剖学的な研究では、トリガーポイントと経穴の分布や関連痛パターンを比較したところ、約71%の対応が報告された研究もあります。
西洋医学と東洋医学というアプローチの切り口は違っていても、身体の同じ生理的・解剖学的反応を捉えている側面はあります。
しかし、一方で「似た場所がある」ということと、「同じもの」であることは別の話です。
経穴が東洋医学の理論体系の中で体系化された点であるのに対し、トリガーポイントは、筋肉や筋膜における圧痛や関連痛などの特徴から捉えられる概念になっています。
<参考文献・参考論文>
Melzack, R., et al. (1977). Myofascial Trigger Points and Acupuncture Points: A Correlation. Pain, 3(1), 3-23.
この論文では、筋筋膜性疼痛に関わる『トリガーポイント』と、疼痛治療に用いられる『鍼灸点(経穴:ツボ)』との関連を位置と疼痛パターンから比較しています。
その結果、『トリガーポイント』と『鍼灸点(経穴:ツボ)』には高い対応関係が認められることが証明され、疼痛治療上の臨床的対応では全体で約71%に対応関係がみられています。
このことから、『トリガーポイント』と『鍼灸点(経穴:ツボ)』は、異なる医学体系から発展した概念にもかかわらず、共通する神経生理学的メカニズムを持つ可能性が示唆されています。
Dorsher, J. J. (2006). Trigger points and acupuncture points: anatomic and clinical correlations. American Journal of Physical Medicine & Rehabilitation, 85(7), 593-600.
この論文では、『トリガーポイント』と『鍼灸点(経穴:ツボ)』について、解剖学的位置だけでなく、関連痛の分布と鍼灸経絡との対応についても検討しています。
その結果、解剖学的に対応する238組のうち、評価可能な221組において、なんと81.5%にあたる180組が、関連痛パターンと経絡分布で完全またはほぼ一致し、さらに9.5%にも部分的な一致が認められ、『トリガーポイント』と『鍼灸点(経穴:ツボ)』の間には強い生理学的・臨床的関連がある可能性が示されたという結論が出されています。
『トリガーポイント』に関する本や、ネット情報を調べると、「頭痛」「めまい」「耳鳴り」「歯の痛み」「胃腸の不調」など、非常に多くの症状との関係が紹介されていたりします。
そして、「その筋肉のポイントを押せば、その病気が治る」というように思いがちですが、そういう意味ではありません。
筋肉の緊張や筋・筋膜性疼痛が、特定の症状に影響している可能性はありますが、頭痛、めまい、耳鳴り、視力障害、消化器症状などには、筋肉以外にもさまざまな原因があるため、『トリガーポイント(TP)』のケアは「痛みや身体の不調を考えるためのひとつの視点」であり、病気の診断や医療機関での治療に代わるものではないので、その点は注意しておくことが大切です。
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