

「老化は仕方のない自然現象だから諦めるしかない」と思われがちですし、今まではそれが常識でした。
しかし近年、生命科学や医学の発展により、老化はただ受け入れるものではなく、そのスピードをコントロールし、遅らせることができる現象であることがわかってきました。
老化そのものを止めることはできませんが、老化の進行速度や健康寿命には生活習慣が大きく影響することがわかってきています。
私たちは歳をとるのでしょうか。
人間の体はおよそ37兆個もの細胞からできていますが、生きて活動する限り、組織によって程度は異なりますが、細胞の新生・修復・交換が生涯にわたって行われています。
そしてその過程でさまざまな「ダメージ」が蓄積していきますが、その「ダメージ」が老化の大きな原因になってきます。
科学的にもう少し詳しくみていきましょう。
老化は単一原因ではなく、複数の生物学的変化が相互作用する現象と考えられていて、López-Otínらが2023年のレビューでは、12のHallmarks(共通して見られる重要な指標)として、以下のものがあげられています。
老化の12のHallmarks
ゲノム不安定性
DNAの損傷が蓄積し、修復機能が追いつかなくなることで遺伝情報が損なわれ、細胞の機能異常やがん化を招く現象。
テロメア短縮
染色体の末端にあるテロメアが細胞分裂のたびに短くなり、限界に達すると細胞が分裂停止や死を引き起こす仕組み。
エピジェネティック変化
DNAの配列自体を変えずに遺伝子のスイッチを調節する仕組みが加齢により乱れ、適切な細胞機能が失われる現象。
プロテオスタシスの喪失
タンパク質の適切な折りたたみや品質管理の機能が低下し、異常なタンパク質が蓄積して細胞に害を及ぼす状態。
マクロオートファジーの障害
細胞内の不要なゴミや劣化した小器官を分解してリサイクルする自食作用が低下し、老廃物が蓄積してしまう現象。
栄養感知の異常
インスリンやmTORなどの栄養シグナル伝達経路の調節が狂い、代謝や生存を最適に保つ生体バランスが崩れる状態。
ミトコンドリア機能障害
エネルギーを生み出すミトコンドリアの機能が低下し、有害な活性酸素が増えて細胞のエネルギー不足を招く現象。
細胞老化
ストレスを受けた細胞が分裂を停止したまま死なずに残り、周囲の組織に悪影響を及ぼす物質を分泌し続ける状態。
幹細胞の枯渇
組織の再生や修復を担う幹細胞の数が減少し、機能そのものも低下することで、身体の回復力が著しく衰える現象。
細胞間コミュニケーションの変化
ホルモンや神経伝達物質などの細胞間シグナルが乱れ、全身の炎症促進や組織の協調性が失われていく現象。
慢性炎症
明確な感染がないにもかかわらず、加齢に伴い免疫系が慢性的な微弱炎症を起こし続け、組織を少しずつ傷つける現象。
腸内細菌叢の変化
加齢や生活習慣により腸内細菌の多様性が失われ、悪玉菌の増加や腸管バリアの破綻を招いて全身に悪影響を及ぼす状態。
<参考>
López-Otín C, et al. Hallmarks of aging: An expanding universe.
Cell. 2023;186(2):243-278.
一般的に老化の原因としていわれているものをあげてみます。
私たちは普段から呼吸をしていますが、その呼吸によって取り込んだ酸素の一部は、非常に反応性の高い『活性酸素』に変化します。
『酸化ストレス』は、老化に関係する重要な生物学的プロセスの一つで、過剰な『活性酸素』は、脂質、タンパク質、DNAなどを酸化し、細胞機能に影響を与えることがあります。
『活性酸素による酸化ストレス』は、『ミトコンドリア機能障害』と深く関係してきます。
ミトコンドリアは細胞内のエネルギー生産工場であると同時に活性酸素の主な発生源ですが、その機能が低下すると過剰な酸化ストレスが生じ、DNAやタンパク質を傷つける原因となります。
活性酸素とともに、老化の大きな原因としてあげられるのが、『糖化(AGEsの蓄積)』です。
食事などで「終末糖化産物(AGEs)」は体内で糖とタンパク質が反応して自然にも生成されますが、高血糖状態ではその生成が加速します。
これが体に蓄積してくると、肌のハリを保つコラーゲンなどを硬化させ、コラーゲンなどのタンパク質を架橋して組織の弾性や機械的性質に影響し劣化させていってしまいます。
『糖化(AGEsの蓄積)』は、『プロテオスタシスの喪失』と深く関係してきます。
タンパク質が糖と結びついて変性し、元に戻らない構造異常を起こして蓄積する現象は、タンパク質の品質管理や恒常性(プロテオスタシス)が破綻している状態そのものです。
<参考>
Zhu J, et al. Advanced Glycation End Products and Health.A Systematic Review.
Ann Biomed Eng. 2024 Dec;52(12):3145-3156.
命のろうそくによく喩えられる『テロメアの短縮』も老化の原因の一つです。
細胞分裂のたびに、染色体の端にある「テロメア」という保護キャップが少しずつ短くなっていき、これが限界を迎えると細胞は細胞分裂を停止し、細胞老化の状態につながってしまいます。
<参考>
Telomere Length as a Marker of Biological Age: State-of-the-Art, Open Issues, and Future Perspectives.
Front Genet. 2021 Jan 21:11:630186.
細胞には、『オートファジー(自食作用)』という、細胞自身の成分を分解してリサイクルする仕組みが備わっています。
この『オートファジー』の機能は、細胞内のゴミ(古くなったタンパク質や壊れたミトコンドリアなど)がたまったり、栄養が不足したりすると活性化し、細胞内の古くなったタンパク質や傷ついた器官を包み込み、分解して新しく綺麗な成分へと作り直します。
ところが、動物モデルを中心に、加齢に伴う『ルビコン(Rubicon)』増加とオートファジー低下が示されています。
<参考>
Suppression of qutophagic activity by Rubicon is a signature of aging.
Nature communications Published: 19 February 2019
こうしたメカニズムが複合的に絡み合い、臓器や組織の機能が衰えていくのが「老化」の正体です。
周りをみると、実際の年齢つまり暦年齢よりも、見た目や体が若い人がいると思います。
老化を考えた場合、カレンダー通りの年齢である「暦年齢」と、体の細胞や血管の状態が示す年齢である「生物学的年齢(体内年齢)」は別物なのです。
近年、この『生物学的年齢』を推定する技術である『エピジェネティック・クロック』という技術が発達してきて、DNAの塩基配列そのものは変わらなくても、そのスイッチのオン・オフを制御する「エピゲノム」の状態を測定することでDNAメチル化パターンなどを用いて、暦年齢とは異なる「生物学的な老化度」を推定する研究が進んできています。
そして、『生物学的年齢』の進み方には、遺伝的要因だけでなく、個人の生活習慣が大きく影響することが分かっています。
大きく影響の与えれるものは次のようになっています。
*睡眠の質と量
*慢性的なストレスの有無
*運動習慣
*栄養バランスの取れた食事
つまり、日々の選択によって、老化のスピードをアクセルを踏むように加速させることもあれば、ブレーキをかけるように緩やかにすることもあり、加齢関連疾患のリスクに介入できる可能性もあるのです。
<参考>
Physical activity and biological age measured by DNA methylation clocks: a systematic review and meta-analysis
Lancet Healthy Longev. 2026 Apr;7(4):100835
Epigenetic Clock: DNA Methylation as a Marker of Biological Age and Age-Associated Diseases
iochemistry (Mosc). 2025 Jan;90(Suppl 1):S356-S372.

老化は体全体で一様に進むわけではありません。
そこで私たちの生活の質(QOL)に直結する、特に「筋肉」「血管」「脳」の3つの部位において、その変化と対策を知ることが大切になってきます。
老化といってすぐに筋肉の衰えをイメージする人も少なくないと思います。
何もしないでおくと、筋肉量は20〜30代をピークに徐々に減少していきます。
そして筋肉が減ると基礎代謝が落ちるだけでなく、歩行能力やバランス感覚が低下し、将来的な要介護リスクに直結する問題になってきます。
そこで筋肉の老化を防ぐには、適度な負荷をかけるレジスタンス運動とともに、筋肉の材料となる十分なタンパク質摂取とレジスタンス運動が重要です。
<参考>
Improving sarcopenia in older adults: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials of whey protein supplementation with or without resistance training
J Nutr Health Aging. 2024 Apr;28(4):100184.
年齢を重ねるとともに血管が硬くなってくるというのも、老化の指標になります。
血管は全身に酸素や栄養を届けるパイプラインですが、高血圧、高血糖、活性酸素による酸化ストレスなどに長期間さらされると、血管の壁が厚く硬くなってしまいその弾力性が失われてきます。
そしてその状態が進んでいくと、心筋梗塞や脳卒中といった重大な疾患を引き起こす引き金にもなってしまいますので、血管をしなやかに保つことが重要になってきます。
そこで血管をしなやかに保つためには、血流を促す運動と、血管を傷つけない食生活が鍵を握ります。
具体的には、有酸素運動をして、抗酸化成分が豊富に含まれている食材を使い、糖化に直結するような食べ物はなるべく控えることが大切です。
老化というと、認知症までいかなくても、最近歳のせいか物覚えが悪くなったと感じる人も多いと思います。
脳の神経細胞そのものが急激に減るというより、神経細胞同士をつなぐシナプスや神経ネットワークの機能が低下することが、加齢による認知機能低下(物忘れが増えたり、新しいことを覚えるのに時間がかかるようになったりする)に大きく関係しています。
脳は適切な刺激や血流の改善によって、何歳からでも新しい神経回路を作る力(脳の可塑性)を持っています。
能の神経伝達ネットワークの衰えを防ぐには、知的刺激を与えるとともに、有酸素運動やきちんとした睡眠確保が大切です。
日々の食習慣は老化スピードを左右する最大の要因の一つです。
そこで、一見老化とは関係なさそうな『マグロの血合い』をみてみます。
健康的な食生活を考えるうえで、マグロ血合いは栄養面から興味深い食材です
『マグロの血合い』というと、マグロの赤身肉の間や骨の近くにある、黒っぽく見える部分です。
『血合い』という名前から、血の塊や臓器を連想してしまう人もいるかと思いますが、実はほとんどが筋肉(血合肉)であり、人間に例えると、「ふくらはぎ」や「太もも」などの持久力を支える遅筋・赤筋の部分に相当します。
『血合い』は、生臭さを敬遠されがちですが、遅筋・赤筋に相当する部位だけあって、ここにはマグロのような回遊魚が激しく泳ぎ続けるために必要な栄養素が凝縮されている部位になります。
マグロの血合いに豊富に含まれている栄養成分
血合いが赤いのは、酸素を全身に運ぶミオグロビンやヘモグロビンが豊富に含まれているからです。貧血になると全身への酸素供給が低下し、疲れやすさや身体機能の低下につながります。
『マグロの血合い』は、鉄分の中でも吸収率の高いヘム鉄が手軽に摂れる優秀な情報源です。
タウリンは、栄養ドリンクの中に定番のように含まれているアミノ酸の一種ですが、肝機能を高めて解毒作用をサポートする可能性が報告されているだけでなく、血圧を正常に保ったり、コレステロール値を改善したりする働きがあります。
『マグロの血合い』にはタウリンが含まれ、心血管系への作用を検討した研究が多くあります。
マグロの脂質には、血液をサラサラにし、血管の炎症を抑えるEPAやDHAといったオメガ3脂肪酸が豊富に含まれています。
これらの成分は、脳の健康維持にも重要な成分として知られています
※ただし、オメガ3脂肪酸、ビタミンD、ビタミンEは、赤身より脂身の方に多く含まれています。
マグロには、代謝をスムーズにするビタミンB群や、強力な抗酸化作用を持つビタミンEが含まれていて、細胞を酸化ストレスから守り、抗老化に役立っています。
注意!
アメリカ食品医薬品局(FDA)と環境保護庁(EPA)が共同で発表している魚介類の摂食ガイダンス(特に妊婦や授乳中の女性、幼児を対象としたもの)において、マグロ類は魚種ごとに水銀含有量の違いから明確に異なるカテゴリーに分類されています。
特にメバチマグロなど体長が大きく寿命が長く食物連鎖のより高い位置にいるものは、体内に比較的多くの水銀が蓄積しやすい傾向があります。
マグロは栄養価の高い魚ですが、特定の魚だけを大量に食べるのではなく、魚種を分散させることも大切です。
マグロの血合いのような抗老化に対して優れた食材を取り入れることは大切です。
食事を意識することで、老化のスピードを効果的に遅らせることができます。
マグロの血合い以外にも、老化のスピードを効果的に遅らせる食材をご紹介します。
ポリフェノールやビタミンC、ビタミンEといった抗酸化物質を豊富に含む食材としては、緑黄色野菜、ベリー類、緑茶などがあり、抗酸化成分を含む野菜・果物などを十分に含む食事パターンは、健康的な食生活の一部として推奨されます。
血糖値をあげる炭水化物は、食べる際はいきなり食べるのではなく、野菜や海藻などの食物繊維から食べる『ベジファースト』を意識し、低GIの食品を選ぶことがおススメです。
食事の順番によって食後血糖の上昇を抑えられる可能性が報告されています。
<参考>
Dietary Advanced Glycation End Products (dAGEs): Pathogenesis and nutritional strategies for health longevity-A critical view
Nutr Metab Cardiovasc Dis. 2026 May;36(5):104538.
筋肉の材料にもなる良質なタンパク質の摂取は大事で、肉、魚、大豆製品、卵などもバランスよく取り入れ、筋肉や皮膚の材料を絶やさないようにすることが、ハリのある体を維持する秘訣です。

私たちがよく耳にする『リジュビネーション』は、いわゆる『若返り』です。
これは、アンチエイジングとも関係が深く、要するに時計の針を過去に戻すことになります。
すでに失われた機能や見た目を、全盛期の状態にまで巻き戻すアプローチがアンチエイジングです。
したがって、厳密にいうとSF的な再生医療や、美容医療における劇的な外科的施術などのイメージになりますが、現在の科学においては、生物学的に時間を完全に巻き戻すことは依然としてハードルが高いと言えます。
一方、『スローエイジング』は、いわゆる『健康寿命をできるだけ長く保つという意味で老化を遅らせる』ことになります。
これは、時計の針が進むスピードそのものを物理的に、あるいは生理的に引き延ばすことになります。
1年間で進むはずの体のダメージを半分に抑えたり、年齢を重ねても病気を発症せず、自立した生活を送れる期間、つまり健康寿命を長く保つ「ヘルススパンの延伸」のアプローチになります。
もちろん、遺伝子という変えられない要素はありますが、私たちが選ぶ日々の食事、適度な運動、質の高い睡眠、そしてストレスマネジメントによって、細胞のダメージを最小限に抑えることは十分に可能です。
したがって「もう歳だから」と諦める必要はありません。
今の一歩、一食の工夫が、10年後、20年後のあなたの筋肉、血管、そして脳の若々しさを確実に形作っていくのです。
だからこそ、明日から、いや今からのライフスタイルに、少しだけ「スローエイジング」の視点を取り入れてみると良いでしょう。