お薬手帳(電子版)の運用上の留意事項について

お薬手帳(電子版)の運用上の留意事項について

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お薬手帳(電子版)の運用上の留意事項について

薬生総発1127第4号

平成二十七年十一月二十七日
都道府県各
保健所設置市薬務主管部(局)長殿特別区
厚生労働省医薬・生活衛生局総務課長

お薬手帳(電子版)の運用上の留意事項について


医薬行政の推進につきましては、平素から格別の御高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
さて、お薬手帳(電子版)の利用が広まっているところですが、薬局や医療機関での閲覧方法、患者等の利用者による書込等、利用者から薬局への情報の提供方法等について統一されておらず、運用が多様となっており、利用者が薬局やお薬手帳を自由に選択出来ない状況があることから、利用者が安心して利用できる環境を整える必要性が生じています。この点に関しては、平成 27年9月 24日に公表された「健康サポート薬局のあり方について」(健康情報拠点薬局(仮称)のあり方に関する検討会報告書)においても、お薬手帳について「患者が服用中の医薬品に関する理解を深めることができる、患者が服用後の状態などを記入することでコミュニケーションのツール」とした上で、電子版については「その普及に当たり、一つのお薬手帳で過去の服薬情報を一覧できること、個人情報の保護に十分留意すること、異なるシステム下でも医療関係者で情報が共有化できること、医療情報ネットワークの普及を見据えてフォーマットを統一することなどの検討が必要である」とされたところです。
これらの状況を踏まえ、委託事業において、お薬手帳(電子版)の運用に当っての課題を整理し、利用者がお薬手帳(電子版)を利用するためのアプリケーションその他のサービス(以下「お薬手帳サービス」という。)のあり方について検討を進め、今般、利用者にお薬手帳サービスを提供する又はその情報を閲覧する薬局及び医療機関等(以下「提供薬局等」という。)並びにアプリケーション提供やデータを保存するサーバー管理などを運営する者(以下「運営事業者等」という。)における運用上の留意点を、ガイドラインとして下記のとおり取りまとめました。また、取りまとめにおいては、電子版の特性も踏まえつつ、お薬手帳サービス全般に関する留意点についても幅広く記載をしています。
今後、かかりつけ薬剤師・薬局がこれらの留意点を踏まえ、利用者のお薬手帳の活用を推進することで、薬物療法の安全性や有効性の向上に貢献することが期待されます。
ついては、貴職におかれましては、貴管下薬局、医療機関その他の貴管内の関係団体に対して、周知いただきますようお願い致します。


第一 お薬手帳の意義及び役割

お薬手帳は、利用者本人のものであり、次の意義及び役割があること。
1.利用者自身が、自分の服用している医薬品について把握するとともに正しく理解し、服用した時に気付いた副作用や薬の効果等の体の変化や服用したかどうか等を記録することで、医薬品に対する意識を高めること。
2.複数の医療機関を受診する際及び薬局にて調剤を行う際に、利用者がそれぞれの医療機関の医師及び薬局の薬剤師等にお薬手帳を提示することにより、相互作用や重複投与を防ぎ、医薬品のより安全で有効な薬物療法につなげること。


第二 提供薬局等が留意すべき事項

1.薬剤師等による利用者への説明お薬手帳の利用に当っては、薬剤師等が利用者に対してお薬手帳の意義、役割及び利用方法等について十分な説明を行い、理解を得た上で提供すること。
2.お薬手帳サービスの集約
(1)提供薬局等においては、利用者が一つのお薬手帳サービスを利用するよう促すこと。
仮に利用者が複数のお薬手帳を利用している場合には、お薬手帳の持つ本来の意義及び役割が十分に生かされないため、一つのお薬手帳により服薬情報を把握できるようにすることが大切であることを説明し理解を得た上で、利用者が希望した一つのお薬手帳にまとめること。
(2)同じお薬手帳サービス内であっても、複数の識別子(ID)を付与することは、やむを得ず必要な場合に限られるべきであること。

3.データの提供方法
(1)利用者にお薬手帳サービスの利用を勧める場合には、利用者が閲覧に必要な機器等を保有しているか確認し、保有していない場合には、利用者が情報を把握できる方法(紙のお薬手帳等)で提供すること。
(2)提供薬局等は、利用者の求めに応じて少なくともQRコードにて情報を出力すること。
※QRコードは、株式会社デンソーウェーブの登録商標
(3)利用者に情報を提供する際には、お薬手帳サービスの項目のうち、「調剤年月日」、「薬品情報」、「用法情報」、その他必要な情報を提供すること。

4.データの閲覧・書込
(1)お薬手帳の意義及び役割を利用者に十分説明し、薬剤師等の医療関係者が閲覧することについて同意を得ること。薬剤師等は情報を閲覧するごとに、利用者への口頭確認や利用者による携帯電話の操作又は携帯電話やサービス固有のカードの受け渡し等の動作により利用者から同意を得ることが望ましいこと。
また、サービス利用開始時に利用者から同意を取得する際には、閲覧可能な医療関係者の範囲等について十分に説明すること。
(2)複数の運営事業者等が提供しているお薬手帳サービスの情報を含め、提供薬局等において一元的に情報閲覧できる仕組みの構築が必要であるが、その構築が実現された場合には、その仕組みを活用することが望ましいこと。
(3)処方・調剤される医薬品が変更された場合等には、利用者及び医療関係者が認識しやすいよう、注意事項欄に記載することが望ましいこと。

5.お薬手帳サービスの選択及びデータの移行
(1)提供薬局等の事情により、利用者のお薬手帳サービスの選択が制限されることのないよう留意すること。
(2)利用者が電子版から紙への変更を希望した場合は、必要な情報を記した紙のお薬手帳を交付するか利用者に手帳情報の印刷を促すなど、紙への切り替えを適切に実施すること。


第三 運営事業者等が留意すべき事項

1.全般的事項
(1)お薬手帳サービスの開発や提供に当たり、提供薬局等が「第二 提供薬局等が留意すべき事項」を満たすことができるよう留意すること。
(2)利用者に対してお薬手帳サービスの利用方法等の説明が十分に行われるよう、運営事業者等は窓口の設置や問合せ先を明確にすること。
(3)提供薬局等が、服薬情報を記入し、情報提供等を行ったときに利用者がその内容を理解した旨を確認する機能を設けることが望ましいこと。

2.データ項目
(1)データ項目については、一般社団法人保健医療福祉情報システム工業会(JAHIS)により公表されている電子版お薬手帳データフォーマット仕様書(以下、「JAHIS標準フォーマット」)注)に従うこと。そのうち、「調剤年月日」、「薬品情報」、「用法情報」、「服薬情報」、「連絡・注意事項」、「要指導医薬品、一般用医薬品」、その他必要な項目を、お薬手帳サービスの項目として設けること。
注)平成 27年 11月 27日現在電子版お薬手帳データフォーマット仕様書 Ver.2.0」が公開されている(http://www.jahis.jp/jahis_hyojyun/seiteizumi_hyojyun/)
(2)お薬手帳サービスとして提供するかどうかにかかわらず、データの移行性を確保するため、別紙に掲げるデータ項目を備えていること。

3.データの提供
(1)現在のところQRコードで調剤情報を書き込めるサービスが多いこと、JAHIS標準フォーマットに対応したQRコード出力が可能な調剤レセプトコンピューターが多く販売されているという状況を踏まえ、利用者がどの薬局でも調剤情報を受け取れるよう、当面はQRコードによる情報の提供を基本とすることが適当であること。
(2)利用者の希望に応じて、秘匿したいデータは入力しない又は削除ができることについて利用者及び医療関係者が認識できるよう留意すること。
(3)利用者のプライバシー保護の観点から、利用者が閲覧者ごとに秘匿したい情報を選択できるようにすることが望ましいこと。その際は、医療関係者が情報が秘匿されていることを判別できるようにすることが望ましいこと。

4.データの閲覧
(1)お薬手帳サービスの閲覧範囲について規約等で明確にすること。サービス利用開始時に利用者から同意を取得する際には、閲覧可能な医療関係者の範囲等について十分に説明すること。
(2)過去の服薬情報などを適切に把握するため、最低1年分の服薬情報の一覧性(スマートフォン、パソコン等の一画面で服薬情報を特段の操作なく一覧できる仕組み)を確保し、その画面上において、基本情報(例:アレルギー歴、副作用歴等)とも相互に遷移するなど容易にアクセスできること
(3)複数の運営事業者等が提供しているお薬手帳サービスの情報を含め、提供薬局等において一元的に情報閲覧できる仕組みの構築が必要であるが、その構築が実現された場合には、その仕組みを取り入れること。
(4)処方・調剤される医薬品の変更等を利用者、医療関係者ともに認識しやすいよう、調剤情報にマークが付くような機能を備えることが望ましいこと。

5.データの移行
(1)利用者が自由にお薬手帳サービスを選択できるよう、少なくともJAHIS標準フォーマットで規定されるデータ項目の移行ができるような書き出し、取り込みの機能を備えること。
(2)紙への切り替えを希望する利用者のため、印刷できる機能を設けるよう留意すること。

6.個人情報保護
(1)お薬手帳サービスを開発・提供する際には、個人情報、医療情報等に関する法令、ガイドライン等を随時把握し、遵守を徹底すること。また、データ項目のうち、個人情報保護の観点から取扱いに特に留意すべき機微な情報の取扱いは、情報漏えい対策を強化するとともに個人情報の保護に関する法律(平成 15年5月 30日法律第 57号。以下「個人情報保護法」という。)や医療等分野の番号等の議論等を踏まえ、随時適切に対応していくこと。
また、利用者に対して、お薬手帳サービス利用開始時等に個人情報の取扱いについて、分かりやすく伝えるとともに、提供薬局等に対しても十分説明すること。
(2)データとしてサーバー等に集積する場合は、利用者本人のみならず、処方した医師や調剤した薬剤師の個人情報が含まれていることに留意し、個人情報保護法やその関係法令を遵守すること。
(3)サーバー等に集積されたデータを第三者に提供する二次利用の範囲や、二次利用を可能にするデータ加工の方法等については、個人情報保護法及び医療等分野の番号等の今後の議論や運用等も踏まえて対応すべき課題であるが、当面の間は、データの利用前に関係者(利用者、医師、薬剤師等)とどのようにデータを利用するか等について合意がない限り利用すべきでないこと。

7.関連サービスについて
(1)お薬手帳サービスにジェネリック医薬品や医薬品画像等の情報を付加する場合は、随時情報が更新されるような情報や複数の疾患に用いられるような医薬品情報等により、かえって利用者に混乱を生じさせることのないよう、これらの医薬品情報等の内容を把握するとともに提供方法に留意することが望ましいこと。
(2)お薬手帳サービスに服薬タイミングを知らせるアラーム機能や服用したことを記録する機能等の医薬品の服用をサポートする機能や運動や食事、喫煙/禁煙、血圧等の記録等医薬品に直接関連しない機能を備えている場合もあるが、このような機能を開発するにあたっては、地域医療情報連携ネットワーク等との連携や親和性等を考慮すること。
(3)疾患や医薬品に関する辞典機能を有するものについては、薬局や医療機関等が利用者に伝えた情報と異なる情報が記載されていることなどにより、利用者に疑問が生じてしまわないよう、その内容の妥当性を担保すること。
さらに、医療に関するソフトウエアの一部(プログラムがデータを加工し、加工結果を診断・治療に使用するものなど)は医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和 35年法律第 145号)の対象とされることもあるため、関係法令を十分に把握し開発すること。


第四 その他

個人情報保護法や医療等分野の番号、地域医療情報連携ネットワーク等に関する今後の議論、普及を踏まえた整理も必要なため、今後、運営事業者等を含めた関係者により引き続き検討がなされていくことが望ましいこと。

〔別紙〕