受験においても、ビジネスにおいても、いろいろなことを記憶する力というのは、非常に重要になってきます。
しかし、なかなか物を覚えることは難しく、困難を伴います。
試験が近づいてきてるのに、全然覚えられない。
ビジネスで覚えなければいけないことがたくさんあるのに、時間がない。
覚えても覚えても、すぐに忘れてしまう。
無味乾燥なことを覚えるのは、非常に苦痛でなんとかしたい。
もっと早く効率的に記憶したい。
朝、覚えたはずの英単語だけど、帰りの電車の中で思い出せない。
もっといろいろなことを、いっぱい記憶していきたい。
こんな悩みがある方は、学習の仕方や記憶の仕方を工夫していくとよいでしょう。
本屋にいくと、「記憶術」などの書籍がたくさんあります。このような記憶術をもとに、効果的な語呂合わせや、記憶術を応用した実践的な覚え方などを紹介していきたいと思います。
早く覚えて、長く忘れない 夢のような記憶法について、述べていきたいと思います。
英単語を毎日10語覚えていけば、1年後には3650語の英単語を覚えられるようになるという計算になりますが、実はそううまくはいきません。
それは、覚えてもその多くを忘れてしまうからです。
人間は、生まれてから今までにいろいろな経験をしていますが、その一部始終を詳細に覚えていたら、脳がパンクしてしまい、また生活にも支障がでてきてしまいます。
それなので、人間は、覚えても強烈に印象に残った重要なこと以外は、時とともに忘れていくようになっています。
ドイツの心理学者であるエビングハウスは、自ら「子音・母音・子音」から成り立つ無意味な音節(rit, pek, tas, ...etc)を記憶し、その再生率を調べ、忘却曲線を導きました。
ここに示した曲線は、エビングハウスの忘却曲線と言われています。
つまり、人間は覚えてもその多くを忘れてしまう動物だということになります。
エビングハウスは、この忘却曲線を、『節約率』ということで出しています。
20分後には、節約率が58%
1時間後には、節約率が44%
1日後には、節約率が26%
1週間後には、節約率が23%
1ヶ月後には、節約率が21%
間違いやすいのですが、節約率は、記憶量を表しているわけではありません。
20個の単語を覚え、24時間が経過すれば、そのうちの67%に相当する13個の単語を忘れている、ということとは違います。
節約率は、一度記憶した内容を再び完全に記憶するまでに要する時間(または回数)をどれくらい節約できたかで表した値です。
★節約率
= 節約された時間または回数 ÷ 最初に要した時間または回数
節約された時間または回数
= 最初に要した時間または回数 - 覚え直すのに要した時間または回数
このグラフを見るとわかるように、初回学習で記憶してから、20分~1日の間に急速に忘却が起こっています。その後、忘却は緩やかになっていくことがわかります。
このエビングハウスの実験では、無味乾燥な音節を覚えたものですので、記憶する難易度としては高いと考えられ、実際の生活の中での記憶や知識の記憶となると、これよりも緩やかな忘却になっているものと考えられます。
記憶の強弱は、4段階に分けることができます。
ファミリア(familiar) : 親近感
一番弱い記憶で、どこかで覚えたことがあるぞといった程度の漠然としたもの
この状態は、学習が無効になってしまうので、こうなる前に反復することが大切
リコグニション(recognition) : 認識、見分ける
自分で思い出すことはできないが、選択肢があれば答えられるレベル
最初はこのレベルで覚えていくのが効果的
リコグニションの状態を反復することにより記憶のレベルをあげていきます。
リコール(recall) : 再生
選択肢がなくても、自力で思い出すことができる強い記憶
ここが標準レベルで、英単語などの記憶はこのレベルは欲しいところです。
オートマティック(automatic) : 自動
自力で思い出そうとしなくても、自然と浮かんでくるレベル
あなたの名前は?と聞かれた場合、自然と瞬間的に名前がでてくる。
本来、自由自在に記憶したものを利用するのであれば、このレベルが理想
参考書のポイントを覚えるにしろ、英単語を覚えるにしろ、初めて学習するときは非常に覚えづらく感じ、一度学習したり覚えたことがあるものは、比較的楽に学習できた感じます。
記憶の強弱は、『ファミリア(familiar)』、『リコグニション(recognition)』、『リコール(recall)』、『オートマティック(automatic)』ということですが、一番理想なのは、『オートマティック(automatic)』の状態の記憶で、ここまでいくと、反復を繰り返さなくても、自動的に出てくるようになります。
覚えるべき内容について、それぞれの項目や単語で、今自分がどのレベルなのかを具体的にチェックして、試験までの期間やその目的や対策を考え、記憶状況なども踏まえることにより、学習の戦略も変わってきます。
記憶の第一ステップは、『未学習(unlearned)』の状態から、『ファミリア(familiar)』 、つまり見たことも聞いたこともない事項から、見たことはあるというレベルにすることになります。
こうすることで、脳の中でその事項がなじみのあるものになります。
例えば、英単語などでいうと、affinity(人・物への親近感・類似性)という単語は見たことがあったり、学習したことはあるけれど、contingent(代表団、派遣団)という単語は見たこともないという場合は、まずは、これを学習して、学習したことはあると思うという記憶のレベルにするところからはじまります。
記憶の第二ステップは、『ファミリア(familiar)』を『リコグニション(recognition)』、つまり見たことがある、学習したことは認識しているんだけど思い出せない状態から、完全に思い出せないんだけど、選択肢が示されれば、当てることができるというレベルにすることです。
たとえば、contingentの単語の意味は次のうちどれ? 「1.相談者、2.代表団、3.交渉人、4.専門家」といった選択肢の中から、正解を答えることができるレベルです。
マークシートなどで、選択肢が与えられている問題であれば解けることもありますが、記述式の問題だと答えられないということになります。
記憶の第三ステップは、『リコグニション(recognition)』を『リコール(recall)』、つまり選択肢があれば答えられる状態から、選択肢を示されなくても答えられる状態にすることです。
なんとなくうろ覚えであったり、瞬間的に思い出せないが、数秒あればしっかり思い出せるといった状態にあたりますが、ほとんどのテストにおいては、最低でもこのレベルの記憶レベルにしておかないと、厳しいでしょう。
記憶の第四ステップ、つまり最終段階は、『リコール(recall)』を『オートマティック(automatic)』、つまりうろ覚えで少し自信がない、思い出すまで数秒かかってしまうという状態から、見た瞬間に答えられる状態にすることです。
英文を読むときに、英単語がでてきますが、英文を読みながら、英単語を一つずつ数秒かけて思い出していると読むのに時間がかかってしまいます。
英単語などは、この『オートマティック(automatic)』の状態、つまり英単語をみた瞬間、意味がイメージできるレベルまでに学習しておきたいものの一つです。
よくテスト前、きちんと覚えたし、自分でもテストしてみてもちゃんと覚えていた。。。なのにテストのときにとっさに出てこなかったというような場合は、うろ覚えの『リコール(recall)』の状態までしかもっていっておらず、『オートマティック(automatic)』の状態になっていなかったので、テストで緊張するなどしてスムーズに思い出せなかったことが原因の可能性が大きいのです。
つまり、覚えるには覚えたのですが、その程度が十分ではなかったということになります。
記憶を時間的に考えると、短期記憶と長期記憶に分かれます。
また、短期記憶の前に、瞬間的に覚えている感覚記憶と呼ばれる状態があると言われています。
感覚記憶(sensory memory)
: 入ってきた情報は最初に無意識に感覚登録器に入力されます。
短期記憶(short-term memory)
: 保持できる記憶容量が極めて小さいので、長期記憶へつなげる反復が大切
長期記憶(long-term memory)
: 継続的に大きな容量の情報を保持することができます。
※:従って、長期に多くのことを記憶するには、短期記憶を反復によって、長期記憶にする必要があります。
さらに、
感覚記憶は、次の2つに分けることができます。
アイコニック・メモリー(iconic memory)
: 視覚刺激の感覚記憶で、約500ミリ秒以内であるとされています。
エコイック・メモリー(echoic memory)
: 聴覚刺激の感覚記憶で、約5秒以内であるとされています。
本人が意識しない感覚記憶は、非常に短いものであり、選択的に意識が向けられたものが、短期貯蔵庫(STS)に情報が入り、こらが短期記憶となり、反復などにより長期記憶になっていきます。
短期記憶は、作動記憶(working memory)と呼ばれることがあり、計算、会話、読書、学習行動などの認知行動で、情報処理機能としての記憶としての働きを持っています。
長期記憶には、次の2つがあります。
宣言的記憶(declarative memory)
: 言語的情報(記述・事実・意味)
手続き記憶(procedural memory)
: 言語的情報とは無関係に無意識的な行動や思考の手続き
英単語をずっと覚えているというような記憶は、長期記憶の宣言的記憶になります。
その宣言的記憶については、さらに大きく2つに分けることができます。
意味記憶(semantic memory) : 一般的な知識教養に関する記憶
専門用語の定義や客観的な知見などの学習
エピソード記憶(episodic memory):時間的・空間的な文脈で表現できるエピソード
自分の過去の経験や他人の過去の想い出など
さらに、中には、明確に意識できず、意図的な想起もできないが、長期に保存されている記憶として、潜在記憶(implicit memory)があります。