夏のカゼ、風寒と風熱の違い | 薬剤師トピックス

カゼで漢方薬というと、多くの人が葛根湯や麻黄湯を連想すると思います。

カゼというとすぐに葛根湯とか、抗ウイルス効果がある麻黄が配合されてる麻黄湯とかいうように考えがちですが、特に夏で汗ばんでいるという場合は、葛根湯や麻黄湯を使わないほうがよいケースもあるのです、

漢方のカゼの原因の考え方

漢方で考えるカゼの症状の原因についてみていきましょう。

カゼと一言でいっても、いわゆる鼻カゼ、喉カゼ、高熱が出るカゼ、咳がよく出るカゼといったように、さまざまなカゼがあります。

西洋医学的考え方をすると、こうした症状の違いは、カゼの原因となっている細菌やウイルスが持っている病原性の違いや生体生理の反応による違いということで説明されます。

漢方では、これとは別の考え方・概念になります。

漢方では、カゼをはじめとした病気を引き起こす要因として、内傷(ないしょう)と外観(がいかん)などがあります。

内傷とは、体自体に由来する要因で引き起こされる病因で、感情が限度を超えて体を傷つけることにより調和を損なったり、暴飲暴食、過労などによって起こるものとされています。

外観は、季節や気候、環境といった外界の要因により引き起こされるもので、細菌やウイルス、花粉症なども外観が原因とされています。

他にも、内傷や外観によって、体の内部に発生する病的な産物である病理的産物などによっても、病気が引き起こされるという考え方になっています。

カゼということで考えてみると、カゼは細菌やウイルスによって引き起こされるので、外観が主たる要因として引き起こされるものと考えられます。

漢方では、自然界の気候変化は、六気と呼ばれていて、「風・寒・暑・湿・燥・火」があり、これが正常な気候の変化であるとされていて、生物が生きていくための外界の条件になっています。

通常、これらに体が適応できている限りは病気にならないのですが、体の正気が弱くなり免疫力が下がってきたり、夏に暑すぎたり、冬に寒すぎたり、これとは逆に夏なのに暑くならなかったり、冬なのに寒くならなかったりすると、体がこれに対応できなくなり外界の気候が原因となり、病邪になってしまいます。

このように、季節の変化は、万物を育むのに欠かせませんが、「風・寒・暑・湿・燥・火」六気は、時に過不足を生じたりすると、体に悪影響を与え、六邪(六淫)と呼ばれる外邪となり、これが体の症状になって表れてきます。

六邪には、「風邪・寒邪・暑邪・湿邪・燥邪・火邪」の6種類の邪気があり、これが病変を引き起こすのです。

体の免疫力がしっかりあり、正気が強ければ、外邪は排除され、病気にはなりませんが、外邪のほうが強ければ、発病してしまいます。

6種類の病邪は、単独で体に侵入し侵犯することは少なく、風寒、風熱、暑熱、湿熱、暑湿、風燥といったように、結合して症状を引き起こします。

季節や気候といった外観と深く関係がある病邪が、症状を引き起こすのはもちろん、人間の免疫力の盛衰によっても、病邪の性質が変わり、症状を引き起こしたりします。

免疫力があれば、その免疫が邪気と戦い熱に代わったり、一方で免疫力がおとろえていると温める力が弱くなってしまい寒に影響を受けた症状が出てきます。

カゼについて考えてみても、風寒、風熱、暑熱、湿熱、暑湿といったように、病邪が結合していろいろなタイプの症状を引き起こします。

風寒タイプのカゼ

風寒タイプのカゼは、風寒の邪気が体表部を侵襲して、衛気と反応することで、寒気やふるえ、関節の痛み、鳥肌など、いわゆる体に寒冷にさらされたときのような反応が表れます。

発熱・頭痛・ふしぶしの痛み・肩や首筋のこりの痛み、咳、鼻水などが起こり、脈は浮いていてすぐにわかり緊張しています。

こうした場合は、体表が寒邪により閉塞し、気血の流れが滞り、寒冷反射が起きているので、体表を温め、汗腺を開いて、汗と一緒に風寒の邪を発散して取り除く、辛温発汗(しんおんはっかん)の働きがある漢方が処方されます。

ふしぶしの痛みが強いなら麻黄湯、肩や首すじのこりがあれば葛根配合の葛根湯が、オススメの処方になってきます。

葛根湯や麻黄湯は、辛温発汗の漢方処方なので、服用した後は、布団をかぶり体をあたため、しっとりと汗をかくようにします。

汗が出ることで、解表され、邪気が除かれ治っていきます。

風寒の邪でやられていても、寒邪はそれほど強くなく、風邪が強い場合は、体表がゆるみ、汗腺が開くので、少し汗が出ます。

軽度の発熱・頭痛・ふしぶしの痛み・鼻水・肩や首筋のこりなどの症状がみられ、脈は浮いていてわかりやすいでしょう。

こうした場合は、辛温発汗の桂枝湯がオススメで、体表を温め、汗腺を整え軽く発散させることで、風寒の邪を取り除き治していきます。

しかし、夏の暑い時期は、普段から汗が出やすい状態の季節なので、少し寒気がするからと葛根湯や麻黄湯を服用すると、汗をかきすぎ、そのことにより正気を損傷し体力を消耗してしまい、脱水などを起こし、症状をかえって悪化させてしまうケースがあるので、辛温発汗で発汗作用が強い葛根湯や麻黄湯の漢方処方は慎重に検討することが大切です。

風熱タイプのカゼ

風熱タイプのカゼは、鼻や喉から潜入した風邪が、熱邪となり、風熱の邪が衛気と反応して、発熱や熱感を生じるとともに、喉の痛み、扁桃の晴れ、頭痛など、炎症性・熱性の症状が強く表れてきます。

代表的な症状としては、高熱と喉の腫れ・痛みで、軽度の悪寒・さむけを伴うこともあります。

また、もともと悪寒で発症したりしたものが、だんだん熱感だけになっていき、寒邪が化熱し、熱邪による症状がでてきて、裸になりたがったりするようなケースもあります。

最初、軽いさむけや体の違和感を感じていたら、しばらくして発熱し、熱感が強くなり、喉の痛みや扁桃の腫れなどの症状がでてきて、顔や目が赤くなったり、頭痛がして、高熱になったりします。
脈は速くなります。

こうした場合の治療は、辛涼解表の処方として、金銀花や連翹、薄荷などが配合された銀翹散がオススメです。

寒気はないかあっても弱く、高熱や熱感、喉の痛みがある熱性の状態になっているような時に、辛温発汗の処方を使うと、熱勢を助長してしまい、正気つまり体力を消耗してしまい、逆効果になりかねませんので、見極め・注意が大切になってきます。

カゼなら何が何でも葛根湯・麻黄湯というのではなく、きちんと証を見極めて使い分けていかなければなりません。

また、風熱の状態に効果的な生薬として、板藍根があります。

板藍根は、アブラナ科のホソバタイセイなどの根を乾燥したもので、漢方の抗菌・抗ウイルス薬とも言われている生薬です。

熱をとり、解毒効果があるセイネツリョウケツゲドク作用をもっています。

夏カゼには、風寒・風熱以外にも、暑熱などのいろいろなタイプがあります。

主要なものについては、動画にもまとめてありますので、ご参考にしてください。

夏カゼ漢方、高熱・喉が痛いからといって葛根湯・麻黄湯とは限らない

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