35~39歳で虫歯がない人の割合はわずか0.5%、日本成人の8割が歯周病に罹患していると言われています。
日本人で虫歯も全くなく、歯周病もないという人はごくわずかということになりますが、こうした虫歯や歯周病の原因のカギを握っているのがmicrobial shift という現象だと言われています。
microbial shift って何?
microbial shift は、そのまま直訳すると、微生物シフトということになりますが、これではどのようなことなのかよくわかりません。
口腔内には常在菌がいて、バイオフィルム(プラーク・歯垢)を住みかとしています。
このバイオフィルムと歯や歯周組織のバランスがとれていれば、虫歯も歯周病も発症しないのです。
もし常在菌がいるだけで、虫歯や歯周病になってしまうのであれば、大変なことです。
これは、腸内細菌のバランスが崩れてくると、便秘になったり下痢になったりするのとよく似ています。
歯を磨かなかったり、磨き方が不十分だったりして、口腔清掃が十分に行われていないと、バイオフィルムの病原性が上昇してしまうのです。
そしてこのバイオフィルムの病原性が高くなってしまうのは、『microbial shift』が原因とされています。
『microbial shift』とは、バイオフィルムを取り巻いている栄養、温度、pH,嫌気度などの環境変化によって、細菌が活発化してバイオフィルムの病原性が上昇する現象のことを言います。
つまり、バイオフィルムが安定した状態から乱れた状態へとシフトすることで、病原性が上昇してしまうのです。
これとともに、歯や歯周組織の抵抗力が低下してしまうことも、虫歯や歯周病発症の原因となります。
したがって、バイオフィルムと歯・歯周組織の間の均衡が崩れると、虫歯や歯周病が発症したり進行したりするのです。
虫歯とmicrobial shift
虫歯は、「脱灰と石灰化のバランスが偏っている状態」と言えます。
つまり、脱灰因子と石灰化を促進する防御因子のバランスが崩れることで虫歯が発症します。
食事で発酵性糖質を多く摂ると、歯肉縁上のバイオフィルムの虫歯原因菌が活発化し増加して、microbial shift が起こるのです。
こうなると、虫歯原因菌が出す酸の産生量も当然増えてくるため、バイオフィルムはより酸性に傾き、そのことにより歯は脱灰されやすくなり、虫歯が発症しやすくなるのです。
この酸に対する歯の耐酸性は、唾液の質やフッ素の塗布によって強化することができるので、よく噛んで唾液を出したり、フッ素入り歯磨きでの歯磨きが虫歯予防に効果的なのです。
歯周病とmicrobial shift
歯周病の場合は、磨きのこしなどがあると、バイオフィルムの細菌はそこから足らない栄養素をお互いに融通し合って、病原性をじわじわ高めていき、microbial shift がゆっくり起こって、歯周組織に炎症が起こってきます。
炎症により潰瘍ができ出血が始まると、血液中の鉄分やタンパク質を栄養素としてさらに歯周病菌は活発化して一気に microbial shift が進んでいくのです。
歯を磨いたときに血が出るのは、歯周病発症のサインなので注意が必要なのです。