開発されている万能インフルエンザワクチンと従来のワクチンとの違い | 健康トピックス

インフルエンザの流行による死者は、世界で25万~50万人、日本で約1万人と言われています。
インフルエンザウイルスは、毎年形を変えて流行するので、その流行するであろうウイルスの形を予測してそれに合ったワクチン接種が行われています。
したがって、予想がはずれてしまうと、ワクチンの効果があまり期待できなくなってしまいます。

そこで現在開発されている、ウイルスの形が変化しても対応できる万能ワクチンについてご紹介したいと思います。
ポイントについては、簡単に動画にまとめてみました。

万能ワクチンの開発

万能ワクチンを開発しているのが、国立感染症研究所 免疫部で、様々なインフルエンザに有効な万能ワクチンを開発しています。

インフルエンザの万能ワクチンとはどのようなものかというと、A型インフルエンザの中で、人間に感染するまたは感染する可能性リスクのあるようなウイルスに対して、1つで有効性を示すことが期待されるワクチンです。

新型インフルエンザに対しても、一定の有効性が期待できるワクチンだと言われています。
つまり、多くのA型インフルエンザウイルスにも、新型インフルエンザウイルスにも対抗できると考えられています。

インフルエンザウイルスの感染メカニズム

インフルエンザウイルスは鼻や口から体内に入って気管支まで進んでいきます。
そこでウイルスは細胞内に入り、インフルエンザウイルスの遺伝情報をもつRNAが放出され、細胞の核の中で増殖していきます。

増えたRNAは核の外に出てウイルスとなり周辺の細胞に感染していくことでインフルエンザの発症となります。

感染が進みひどい場合だと肺炎や脳症が起こり、最悪の場合は死に至ることもあります。

インフルエンザには、A・B・C・Dの4つの型があります。
このうち、C型とD型は人間には感染しないので、インフルエンザの感染というとA型とB型が問題になります。

B型は人間から人間への感染のみであることから、大流行の可能性は少ないと言われていますが、A型は人間のほか鳥や豚にも感染することから流行しやすく、毎年のように流行します。

過去、世界で起こったインフルエンザの大流行であるパンデミックは、いずれもA型になっています。

大流行によるインフルエンザの死者は次のようになっています。
1918年 スペイン風邪 : 4000万人以上
1957年 アジアインフルエンザ : 200万人以上
1968年 香港インフルエンザ : 約100万人
2009年 新型インフルエンザ : 約28万人

従来のワクチンが効くしくみ

従来のワクチンは、毎年流行するウイルスのタイプを予測して、そこからワクチンを接種するというしくみになっています。
もし、流行の予測がはずれてしまった場合は、ワクチンの有効性は低下する可能性があります。
また、新型インフルエンザが発症した場合は、対応が難しくなってきてしまいます。

ウイルスの表面にはウイルス独自の目印と言える抗原が数多く存在しています。
体内に入ったいウイルスを攻撃しようとする免疫反応によって、抗原を攻撃する抗体が作られます。

その抗体が抗原にくっつく抗原抗体反応が起こることで、ウイルスは細胞に侵入できなくなり、やがて体内で分解されていってしまいます。
ワクチンは、この抗原抗体反応、つまり免疫反応を強化するために接種されます。

インフルエンザワクチンは、死んだインフルエンザウイルスが入った不活化ワクチンなので、接種されて体内に入ると、その抗原に対する抗体ができ、生きたウイルスが入ってきてもすぐに抗体が働いて発症を防ぐことができます。

インフルエンザウイルスは、流行するウイルスの形が毎年、少しずつ形を変えてしまいます。
したがって、毎年、流行するウイルスを予測して、それに適した免疫を誘導することができるワクチンを作っていき、それを毎年シーズン前に接種する必要がでてきます。

インフルエンザウイルスは、体内で突然変異をして頻繁に抗原が変化します。
そうすると、免疫が新しい抗原に対応できず、ウイルスが増殖してしまいインフルエンザ発症となってしまいます。

万能ワクチンは予想外のウイルスにも対応

万能ワクチンは、その一種類を毎年、あるいはもう少し間隔をあけて打っておけば、A型に対しては一定の効果が期待できます。

インフルエンザの抗原は、形が変わりやすい部分と変わりにくい部分があります。
万能ワクチンは、形が変わりにくい部分に対して抗体を誘導するワクチンとして開発されています。

インフルエンザの抗原は、木のような形に例えられることもありますが、木で言うと枝葉にあたる部分は、免疫による攻撃を受けやすいような位置になることから、ウイスるはその形をコロコロと変えてきます。
枝葉を変化させることで免疫から逃れようとします。

これに対し、幹に当たる部分は、免疫の攻撃を受けにくい部分で、比較的構造が変わりません。

通常、免疫の攻撃を受けにくい幹の部分を人為的な操作によって、免疫の攻撃を受けやすくするワクチンが開発されています。

人間は、もともとインフルエンザウイルスの抗原の幹にあたる部分を攻撃できる抗体を、少量ですが持っています。
しかし、インフルエンザウイルスが体内に侵入しても、幹の部分が枝葉に隠れているため、インフルエンザウイルスの抗原を発見しにくく、体内で抗体がつくられにくいのです。

そこで抗原の枝葉の部分を取り除いたワクチンを作ることで、幹の部分を攻撃できる抗体を増やすことができます。

インフルエンザウイルスの表面に抗原がある時には、幹の部分を狙った抗体は結合できません。
幹の部分が外に出てくる瞬間があります。

従来のワクチンによる抗体は、ウイルスが体内に侵入し、感染・増殖して次の細胞に感染する前に攻撃しています。

万能ワクチンは、ウイルスが細胞に感染したのちに、増殖しようとする時にインフルエンザウイルスの抗原の幹の部分を狙って攻撃するので、さらなる増殖を抑えることができ、インフルエンザの発症を防ぐことができるのです。

感染はすぐけど、増殖をブロックする抗体が誘導されることで、インフルエンザの発症が防げるのです。

今後のインフルエンザ万能ワクチンの開発タイムテーブル

インフルエンザの万能ワクチンは、ヒトの免疫系を再構築したようなヒト化マウスで評価したケースで、有効性があることが確認されています。
現在、サル・霊長類を使ったモデルで、有効性や安全性の検証が行われています。
3年以内にヒトの治験にも着手する計画で、10年以内に国産ワクチンということで実用化を目指し研究が進められています。

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