人間の脳には、その部位によっていろいろと役割があります。
脳の新皮質は、知力の脳ともいわれ、知識や理性を司っている部分になります。
一方、扁桃体は、恐れに対して反応する部分になります。
恐れに反応する扁桃体とは
扁桃体(amygdaloid body)は、側頭葉の下内側の深層にあるアーモンドの形をした灰白質で、機能的には大脳辺縁系に属します。
扁桃体は、人間が荒野で暮らしていた時代からの生き残りの穴住民のようなもので、本能的な恐れに住処を提供して、どんな危険も見逃さないように周囲を厳重に見張る番人のような存在です。
扁桃体は緊急時の防衛体制
扁桃体は危険を感じた時、脳を警戒モードに設定します。
その瞬間、動物は神経が過敏になって、周囲の環境をたえず細かく観察して、わずかな変化にも強い反応を示すようになります。
赤ん坊が、お腹がすいたとき、気分が悪いとき、病気になったときに泣き出したりするのは、防衛体制ともいうべき扁桃体の活動が盛んになって、親の注目を集めようとするものと言えるでしょう。
扁桃体の反応速度は早く、新皮質の2倍ともいわれています。
人間は恐怖を感じた時に、最悪の事態を想定したりして不安に駆られるものですが、厳しい自然環境や危険な場所で最悪の事態を考えるのは、人間の進化という面からも賢い選択をしてきたと言えます。
もし危険がせまっているのに、のんきに構えていたら命がいくつあっても足らないということになってしまうのです。
扁桃体は記憶もする
野生の動物などでも、生まれてきて、仲間が天敵に襲われたり食べられたりする場面を見たりします。
すると、それが扁桃体で記憶され、危険であるという記憶がされます。
その外見、におい、音、行動などいろいろな情報を情報して、同じような天敵に出くわした時に、それまでに蓄えてきた情報をもとに何をすべきかすべきでないかをとっさに判断するのです。
トラウマも、大きな出来事ほど多くのストレスホルモンが分泌されて、その恐ろしい記憶が鮮明に焼きつけられ、扁桃体の記憶に残ってしまうことが関係しています。
扁桃体の反応は理性に勝る
どんなに頭で考えていても、扁桃体は緊急時に対する防衛体制なので、知性に勝ってしまいます。
ここで面白い実験があります。
ガラガラヘビを分厚いガラスの檻に入れてから、被験者に顔をガラスにつけてもらいます。
檻の中のヘビを挑発すると、驚いたヘビは、被験者のいる方向へに飛び出します。
このとき実験に参加していた100人全員が、ヘビがむかってくるたびに後ろに飛びのいています。
もし、頭で理解し、理性で対処していれば、ヘビとの間には分厚いガラス板があるので、逃げなくても安全だということはわかります。
でも、みんな後ろに飛びのいてしまいます。
これは、理性を司る新皮質の働きで、扁桃体の影響をコントロールすることはできないということです。
窮鼠猫を噛むのも扁桃体のせい
よく、窮地に追い込まれた猫が、かないもしない猫に向かっていくということで、『窮鼠猫を噛む』という言葉があります。
扁桃体は、危険を察知したときに、逃げるか戦うかの判断をします。
しかし、逃げるという選択肢がよりリスクが高いと感じれば、自分より強いものに立ち向かっていきます。
向かっていけば、相手がひるんで、その隙に逃げるチャンスもでてくるものです。
危険を察知し、逃げる、そして場合によっては戦うといった行動を引き起こすことを判断しているのは、脳の扁桃体なのです。