

『分散学習法』において、わからない、知りたいという人が多いと思われるのが、分散学習の間隔、つまり憶えたことの反復学習のタイミングです。
これといったものがあればいいのですが、残念ながら基本は、学習内容や学習者の背景によって最適な間隔が異なってくるため、何回か試してみて、実践的に最適なタイミングを見つけて調整していくしかありません。
例えば、歴史年表の憶えやすい語呂合わせと、初めて習う外国語の単語では、語呂合わせのほうが覚えやすいので、反復タイミングが少し長くても記憶に残りやすいといったことからもわかるように、学習内容、学習者の背景にもよるところが大きいのです。
しかし、これについては多くの研究が行われており、その結果を参考にすることができるので紹介していきたいと思います。
いろいろ販売されている記憶術や学習法などに関連した本を読んでいると、多くの本に『人間の記憶は時間と共に薄れていくものであり、だからこそ記憶をするには反復することが大切である』というようなことが書かれています。
そして、記憶術に興味をもったり、学習法で悩んでいろいろと記憶術や学習法の本を何冊か読んでみたという人は、必ず目にしているのではないかというほど有名なのが、ドイツの心理学者 ヘルマン・エビングハウス(Hermann Ebbinghaus)が提唱した『エビングハウスの「忘却曲線(Forgetting Curve)」』で、学習した内容は時間が経つにつれて指数関数的に忘れられていくというグラフになっています。
人間の記憶の特徴として、「一度覚えただけでは、時間とともにほとんど忘れてしまう」ということをあげていて
20分後には42%を忘れる
1時間後には56%を忘れる
1日後には66%を忘れる
1週間後には75%を忘れる
1カ月後には80%以上を忘れる
つまり、「一度覚えただけでは、時間とともにほとんど忘れてしまう」というものです。
『間隔反復(Spaced Repetition)』は、「復習の間隔を少しずつ伸ばしながら繰り返す」学習法で、これによって忘却のタイミングに合わせて思い出すことを行うことで記憶が強化して長く忘れなくなるというものです。
復習回数に合わせて、そのタイミングを学習直後、1日後、3日後、1週間後、2週間後、1カ月後というように復習の間隔を徐々に広げていくことで、記憶の保持力が向上していきます。
必要最小限の労力で最大限の記憶効果を得るための最強の学習法は、
『最強の学習法』 =『忘却曲線』 × 『間隔反復』
となり、復習のタイミングが重要になってきます。
『エビングハウスの「忘却曲線」』については多くの本に記載されているのですが、いざそしたら実戦で、どのぐらいのタイミングで反復練習をしたら良いのかという『間隔反復』については、多くの本は記載されていないか、さらりと1日後、3日後、1週間後、2週間後、1カ月後といった日数が列記されているくらいになっています。
これは間隔反復といっても、個人差もありますし、学習量にもよりますし、学習している内容の知識がどの程度あるかなどの学習者の背景にもよって異なってくるので、一般的に言えないことから、万人に共通したタイミングはわからないから記載されていないのでしょう。
そこで登場するのが『テンポラル・リッジライン(temporal ridgeline)』という概念で、記憶の定着を最大化するための最適な復習タイミングに関する理論です。
『テンポラル・リッジライン(temporal ridgeline)』は比較的新しく、近年になって学習法や教育技術の分野で使われ始めた言葉で、「間隔反復(spaced repetition)」や「忘却曲線」の研究に基づいています。
『テンポラル・リッジライン』は、最適な復習のタイミングが記憶の保持期間の10~20%の時点にある
という考え方です。
復習の効果が最も高まる「山の稜線(ridgeline)」のようなタイミングを指すことから、『テンポラル・リッジライン』と呼ばれています。
『テンポラル・リッジライン』を意識することで次のようなメリットがあります。
『テンポラル・リッジライン』は、2008年にメロディ・ワイズハート(Melody Wiseheart)とハロルド・パシュラー(Harold Pashler)らによって提唱されました。
<参考文献>
Cepeda, N.J., Vul, E., Rohrer, D., Wixted, J.T., & Pashler, H. (2008)
“Spacing effects in learning: A temporal ridgeline of optimal retention.” Psychological Science, 19(11), 1095–1102.
研究では、総時間を固定して学習回数を分散させる形で分析した結果、「学習間隔(G)」と「保持間隔(D)」の比率(G/D)が記憶保持にどのように影響するか、定量的に明らかにされました。
「学習間隔(G)」とは、Learning Interval のことで、学習内容が学習される時間囲、学習セッション間の時間で、2回の学習セッションの間隔。
この「学習間隔(G)」は、学習効率や記憶定着率と深く関係していて、この間隔が短すぎると「詰め込み学習」になりやすく、長すぎると忘却が進んでしまいます。
「保持間隔(D)」とは、(Retention Interval)のことで、学習内容を学習した後、テストや再評価が行われるまでの時間で、例えば、今日学んだ内容が1週間後に再テストされる場合は、保持間隔は「1週間」となります。
この「保持間隔(D)」は、記憶の耐久性(記憶保持力)と深く関係しています。
その結果として、保持期間の10~20%程度の間隔が最も効果的である「テンポラル・リッジライン(temporal ridgeline)」であることが提示されたのです。
合計1354人が参加して6つの実験が行われました。
被験者は英単語ペアや雑学知識、事実情報などのペアなどを学習し、学習(Study) → 復習(Study) → テスト(Retention-Test) の3段階構成で学習します。
そして最初の学習セッションで、全ての項目を学び、「完全に覚える(正答可能)」まで練習+テストを繰り返します。
次に一定の「間隔G(Interstudy Gap)」を空けて、2回目の学習セッションを実施。ここでは再度項目を提示・テストし、忘却していれば復習します。
一定の「学習間隔(G)」を空けた後、、2回目の学習セッションを実施し、忘却していれば復習します。
最後に「保持間隔(D)」を経た後、最終テストを実施し、最初と同様の想起試験で、正答率を評価します。
学習間隔(G)は、数分から3.5ヶ月の範囲で設定され、保持間隔(D)は、数日から1年後まで多様に設定されました。
そして同じ学習内容を数分間隔など「密に」繰り返す群と、1日とか1週間「間隔を空けて」繰り返す群とで、記憶保持率を比較しています。
【結果】
結果は、次のようになりました。
「学習間隔(G)」が小さい場合、テスト性能は低く、「学習間隔(G)」が大きくなるにつれて正答率は上昇する傾向があった。
しかし「学習間隔(G)」が大きすぎると、かえって記憶定着に悪影響が出ていて、逆U字型(inverted U-shaped) の性能曲線となった。
「保持間隔(D)」に対して、各々「最も良い成績が得られる「学習間隔(G)」があった。
例えば「保持間隔(D)」が7日の場合は「学習間隔(G)」は1~3日(約20~40%)、「保持間隔(D)」が35日の場合は「学習間隔(G)」は8日(約23%)になった。
また「保持間隔(D)」が350日の場合は「学習間隔(G)」は17.5日(約5%)になった。
これらのデータを集計すると、「保持間隔(D)」に対する「学習間隔(G)」の比率(G/D)は「10~20%程度」になっていることがわかりました。
しかもこれは、若干の短期テストでは20~40%に達し、長期(約1年)テストでは5~10%へ低下することもわかりました。
この結果からすると、
最適な学習間隔は、「保持間隔(D)」に依存する
ということになります。
つまり、短期間でのテスト(例えば1日後にテストがある)の場合は、数時間~1日程度の間隔での学習が最適で、一方、長期間後(例えば半年後にテストがある)の場合は、2週間~1カ月の学習間隔が最も効果的という結果になっています。
そして「保持間隔(D)」に対して、最適な「学習間隔(G)」は、(G/D)が10~20%程度となるところにあります。
わかりやすく言うと、100日後にテストがありますよというのであれば、「学習間隔(G)」は、2週間〜1ヶ月の学習間隔が最も効果的ということになります。
とはいえ、同じ日や翌日に学習を繰り返すと効果は小さいものの、逆に間隔が長すぎてしまうと、最初の学習内容を忘れてしまい効果が出にくくなります。
つまり、「忘れる直前」に復習するのが理想的であるということにはかわりありません。
勉強するときは、目的の試験に応じて復習のタイミングを戦略的に設計するほうが効率的だということになります。
例えば1週間後にテストを控えているならば、学習したことは1日後に復習すべきであり、もし試験が半年後であるならば、3~4週間後に再度復習するのが効率的ということになります。
もちろん、記憶の定着を最大化するためには、学習を1回だけで終えるのではなく、最適な間隔で複数回繰り返すことが重要であり、また3~4週間後と言えども、せっかく憶えたことを忘れないためにも、半年後の試験であっても、1日後、1週間後に軽く復習しておいたほうが良いでしょう。