風邪漢方としての『銀翹散』とは | 健康トピックス

風邪をひくと、とりあえず『葛根湯』という人もいるかと思います。
しかし、漢方薬はどのような風邪なのか、『証』というものを見極めて使うべきもので、『証』があっていないのに『葛根湯』を服用すると、かえって症状が悪化する場合もあるのです。

落語の題材にもなっている葛根湯

風邪漢方の代名詞ともいえる葛根湯は、江戸時代には落語の題材として、頭が痛いといっては葛根湯、おなかが痛いといっては葛根湯、診察を待っている付添人にも葛根湯というように、どんな人にも葛根湯ばかり処方するヤブ医者のことを葛根湯医者と呼んでいたりしました。
そのことが落語にも登場してくるくらい有名な処方です。

葛根湯は、解表剤といって、風邪の初期段階の寒気や発熱、肩こりや関節のこわばりといった、病状が比較的、体の表側にある表証に用いられ、体表血管を拡張して発汗させて体表に現れている症状を取り除いて治療していきます。

銀翹散と葛根湯との違い

銀翹散も、解表剤なのですが、葛根湯と大きな違いがあります。
銀翹散と葛根湯の違いは、発熱と寒気になります。
ひとことで言うと、発熱していて寒気が強いか、ほとんど感じないかです。

発熱していてゾクゾクと寒気が強い場合は、葛根湯などの辛温解表剤が用いられます。
「風寒襲表(ふうかんしゅうひょう)」といって、風寒という、さむけやふるえ、頭痛や関節の痛みなど、寒冷にさらされたときのような症状が出ているときに用いられます。
つまり、体を温めて、発汗させて治していく処方で、その代表例が葛根湯や麻黄湯になります。

一方、発熱し熱感が強く、寒気はないか、あってもごく弱い場合は、辛涼解表剤が用いられます。
つまり、熱感をもった体の表面から、熱を放散させて炎症を鎮めていく処方で、その代表例が銀翹散になります。
この時に、葛根湯を処方してしまうと、葛根湯は体表から熱を発散させるのではなく、体表を温めてしまいますので、かえって症状を悪化させかねません。

漢方処方関連の本に銀翹散が収載されていないのはなぜ?

漢方処方を調べようと、漢方処方に関して書かれた本を探してみると、『葛根湯』や『麻黄湯』についてはよく解説されているのに、『銀翹散』については、解説どころか索引にも載っていないという本が結構あります。
実は、葛根湯や麻黄湯が傷寒論に収載されているのに対して、『銀翹散』は熱病に関する温病学説に基づく『温病条弁(うんびょうじょうべん)』に収載されています。

『銀翹散』が収載されているのは、『温病条弁』であり、漢方の四大経典である『黄帝内経(こうていだいけい)』、『難経(なんぎょう)』、『傷寒雑病論(しょうかんざつびょうろん)』、『神農本草経(しんのうほんぞうきょう)』に収載された処方ではないことから、漢方処方関連書籍を調べても解説されていないことが多いのです。

銀翹散の効能

【効能】 辛涼透表、清熱解毒
【適応】 外感風熱、温病初期

『銀翹散』は、外界から風邪・熱邪が合わさった病邪である風熱邪が口や鼻から肺に侵入してきた外感風熱と呼ばれる病態に効果を発揮します。
市販品の効能をみると、
『風邪によるのどの痛み、口・喉の渇き、咳、頭痛』となっています。

『銀翹散』は、風熱犯衛(ふうねつはんえ)といって、風熱邪が体の衛気を犯すことで、発熱や熱感が生じ、喉が痛い場合に用いられます。
熱感をもたらす性質の細菌やウイルスなどにより、体の免疫反応に負担がかかっている状態です。
軽いさむけや体の違和感があり、そこから発熱したり熱感が出てきて高くなり、喉が痛く頭痛などがある場合は、辛涼透表(しんりょうとうひょう)といって、体表から熱を放散させて炎症を鎮める必要があります。
熱感を生じさせ、発熱してくる温病で、病邪がまだ体の表面にいるときに用いられるのです。

熱感・発熱を引き起こす病邪である風熱邪は、多くの場合、鼻や口から体に侵入してきます。
そして体の衛気と体表で戦うために、炎症が起こり、熱感が生じ、発熱します。
このとき、かすかな悪寒がする場合もあります。
炎症により気が上昇すると頭痛や咽頭痛が起こり、熱証により目の充血が起こったりします。
さらに熱により体の水分が消耗するために口渇が起こってきます。
風熱邪が肺へ侵入していくと、肺の機能が低下し、汗を出す機能が阻害されて、汗がでなくなってきます。
さらに、肺気が上昇して咳が出るようになったりします。

舌診で舌をみると、熱証であることから紅色になっていて、先が尖っています。
そして、白から黄色い舌苔が薄く付着しています。
脈は、熱証で、しかも体の表面の病状になっているので、脈拍は多く、浮いた感じの脈になっています。

銀翹散の処方

銀翹散の名前の由来は、君薬である金銀花の『銀』と連翹の『翹』の字をとって、『銀翹散』となっています。

銀翹散を、『君臣佐使』に分けると、次のようになります。
君薬 : 金銀花、連翹
臣薬 : 薄荷、牛蒡子、荊芥、淡豆鼓
佐薬 : 淡竹葉、桔梗、芦根(羚羊角)
使薬 : 甘草

役割別にみてみると次のようになります。
清熱解毒 : 金銀花、連翹
辛涼解表 : 薄荷、牛蒡子
辛温解表 : 荊芥、淡豆鼓
止咳・利咽: 桔梗、甘草
清熱・生津・止渇: 淡竹葉、芦根(羚羊角)
使薬 : 甘草

『銀翹散』は、金銀花、連翹、薄荷、牛蒡子、荊芥、淡豆鼓、淡竹葉、桔梗、甘草、芦根の10の生薬からなる処方ですが、解熱・解毒効果を強化するため、芦根の代わりに羚羊角を配合したものが市販されていて、銀翹解毒散と言われたりもしています。

君薬、臣薬の6つの生薬は、すべて肺経に作用するもので、肺をはじめとする呼吸器系、鼻、咽頭部の粘膜、皮膚などに作用し、冷涼透表の働きがあります。

それぞれの生薬の具体的な働きは次のようになっています。

『金銀花(きんぎんか)』
スイカズラ科スイカズラの花蕾
解表・清熱解毒
抗炎症・解熱作用、抗菌・抗ウイルス作用

『連翹(れんぎょう)』
モクセイ科レンギョウの果実
解表・清熱・解毒・消腫
解熱・抗炎症・利尿作用、抗菌・抗ウイルス作用

『薄荷(はっか)』
シソ科ハッカの全草
解表・透疹・利咽
咽の痛み、頭痛、鎮痛・抗炎症作用、発汗・利胆

『牛蒡子(ごぼうし)』
キク科ゴボウの種子
清熱解毒・解表・去痰・止咳
涼性で咽喉の炎症、利尿作用

『荊芥(けいがい)』
シソ科ケイガイの花穂あるいは地上部
解表・利咽・消腫・止血
解熱・鎮痛・抗炎症作用、抗菌・抗ウイルス作用

『淡豆鼓(たんとうし)』
マメ科ダイズの種子を蒸して麹菌を用いて発酵させたもの
解表・除煩
発汗作用、消化吸収促進作用

『淡竹葉(たんちくよう)』
イネ科ササクサの全草
安神、除煩、利水、通淋
解熱・抗菌・利尿作用、炎症による発熱・口渇に用いる

『桔梗(ききょう)』
キキョウ科キキョウの根
止咳・去痰・排膿
鎮咳・去痰・抗炎症・鎮痛・鎮静・解熱・気道分泌亢進作用

『甘草(かんぞう)』
マメ科カンゾウの根
補気・清熱解毒・止痛・止咳
抗炎症・鎮咳・去痰・解毒作用、抗菌・抗ウイルス作用

『芦根(ろこん)』
イネ科アシの根茎
清熱・止渇・除煩・止嘔
口渇・嘔吐・肺炎・気管支炎に用いる

『羚羊角(れいようかく)』
ウシ科サイガカモシカの頭角
清熱瀉火・解毒・平肝・止痙
鎮静・解熱・鎮痛作用

まとめ動画(銀翹散)


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