『虎』がつく生薬・漢方処方 | 薬剤師トピックス

漢方生薬や漢方処方の中には、動物の名前がついているものも少なくありません。

龍と虎

『虎』『龍』とともに、五経のひとつである中国の古典『易経』に、「龍吟ずれば雲起こり、虎嘯けば風生ず」という言葉が出てきます。

これは、龍が鳴けばおめでたい兆しの瑞雲が湧き立ち、虎が吠えれば自然に風が生じること。

それぞれが相伴うことによってより一層勢いを増すことをあらわすとされてきました。

「雲は竜に従い、風は虎に従う」という言葉もあり、龍は雲を従え、虎は風を従えるように、天子に徳があれば必ず賢臣があらわれることのたとえとされています。

中国の五行説に照らし合わせ、五神(ごしん)というものがあり、中央に、麒麟、そして東の青龍・南の朱雀・西の白虎・北の玄武ということでも『虎』が登場します。

虎骨(ココツ)

『虎』の文字が入った生薬といえば、多くの人が連想するのが『虎骨(ココツ)』です。

別名、虎脛骨(コケイコツ)とも呼ばれ、ネコ科トラ(Panthera tigris)の骨が使われます。

虎はアジアに広く分布していますが、中国の東北地方には、シベリア虎や満州虎が生息していて、華南地方に行くと、華南虎が生息しています。

シベリア虎はやや大型で毛が長いのに対し、華南虎は小型で縞模様の幅が広いのが特徴になっています。

『虎骨』として全身の骨を生薬として用いますが、中でも脛の骨を『虎脛骨』として重んじたりもします。

良品は、シベリア虎の中年の雄とされています。

また『虎骨』を長時間にわたり煎じつめたものは『虎骨膠(ココツキョウ)』と呼ばれ、抗炎症作用や鎮痛作用が期待されています。

『虎骨』の主成分は、リン酸カルシウム・炭酸カルシウムです。

漢方では、四肢の関節痛や下肢の萎縮・麻痺・痙攣・ひきつけなどに利用されています。

五虎湯(ゴコトウ)

『虎』の字が使われている漢方処方といえば、ほとんどの人が連想するのが、中国「明」の時代に書かれた漢方書「万病回春(まんぼうかいしゅん)」に出てくる『五虎湯(ゴコトウ)』でしょう。

咳や気管支喘息に用いられる処方で、基本的には、十分に体力がある胃腸が弱くない人に適応される処方になっています。

かなり激しい咳がある時の処方で、麻杏甘石湯では十分に効果がない場合などに用いられます。

漢方処方として、呼吸器の働きが弱っているところに、寒さなどが加わり引き起こされた症状で、肺に熱を持っていたり、肺気が上昇している場合に用いられます。

五虎湯の構成生薬は、麻黄・石膏・桑白皮・甘草・杏仁の5つになります。

肺気が上昇するのを、麻黄・杏仁が抑えることで、喘息や咳を抑えます。

肺の働きが低下して、肺が熱を持つようになる肺熱の状態を、石膏・桑白皮が冷やします。

肺熱により体表から水分が汗となって出てしまい、体の水分が少なくなり口渇を強く感じることになりますが、麻黄・石膏が水代謝を改善して汗をコントロールします。

肺熱により、水分が少なくなって痰ができ、喘息や咳につながっていきます。

5つの生薬からなっているので、五虎湯の『五』はなんとなくわかると思いますが、なぜ『虎』なのかというと、五臓の中での肺の守護神が白虎(びゃっこ)であることから
『五虎湯』と名付けられたという説があるのです。

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