『咳』は、肺の病変によって生じます。
漢方・中医学では、『肺』は、五臓六腑の中でも矯臓(きょうぞう)と言われ、きゃしゃな臓器とされています。
ちょっとしたごく軽微な刺激によっても咳が引き起こされ、肺以外の病変の影響が肺に及んで咳が発生することも多くなっています。
漢方・中医学では、咳は止むるなかれ
漢方・中医学の考えでは、咳が出たから咳止めを使うという発想ではなく、根本的な治療によって、咳が自然に止まるようにするという考えで、「咳は止むるなかれ」とされています。
『咳』は、肺が痰などの異物を排除しよとする生理的で大切な反射なので、これを咳止め薬を使って止めようとすると、かえって異物を停留させてしまい、病変を長引かせたり、悪化させてしまうことにもつながるという考えになります。
風邪などで見られる急性の咳については外界からの病邪が市乳し、肺の宣発(息を吐きだしたり、栄養物や水分を外に向かって布散し、体表を滋潤したり、汗を出すことにより皮膚呼吸をすること)や粛降(息を吸い込んだり、栄養物や水分を代謝しながら下方に降ろして排出すること)の働きが失調し、肺気の上逆が生じる病態で、入ってきた外邪の種類などによって、いろいろな病変がみられます。
風邪の咳
ウイルスや細菌などの侵襲を受けて急性に出てきたいわゆる風邪の咳、気候や環境の変化に順応できなかったために出てきた咳などは急性の咳になりますが、侵入した病邪により症状も変わってきます。
咳・痰がでていて、寒気・鼻づまり・関節痛・発熱などの症状がみられた場合は、風寒の邪が体表を侵している状態です。
凍結の性質を持つ寒邪が体表部を閉塞させるため、肺の宣発機能が損なわれ、粛降できなくなるために、肺気の上逆が引き起こされて咳が起こってきます。
痰がある場合は、白くて多く、胸苦しさや腹満などがあり、舌をみるとべっとりと舌苔が白くなっている場合と、薄い水様性の痰や鼻水が多くでて、喘鳴がある場合があります。
こうした急性の咳に対しては、麻黄湯がお奨めになります。
もし、痰が白くて多く、舌苔が白くなっている場合は、参蘇飲(じんそいん)が、薄い水様性の痰や鼻水がある場合は、小青竜湯がお奨めです。
粘稠な痰を伴う咳
咳の他に、粘稠な痰を伴っている場合は、風熱の邪が肺を侵し、粛降が阻害されて肺気が上逆している状態になります。
ウイルスや細菌などによる炎症の咳で、黄色い粘稠な痰がみられる場合は、桑葉・菊花・薄荷・杏仁・桔梗などが配合された桑菊飲(そうぎくいん)といった処方がお奨めです。
よく見られる咳での漢方の使い分け
よく見られる咳において、漢方処方の使い分けをみていきましょう。
夜間にも強い席込みがあり、痰は黄色くて呼吸が荒く、喉の渇きをうったえている場合で、舌苔が黄色になっていたら、肺熱を起こしているので、五虎湯や麻杏甘石湯が有効です。
咳とともに、痰が出ていて寒気や鼻づまりがあり、舌苔が白くべたっとしていたら、参蘇飲がお奨めです。咳とともに、白い痰が多く、疲れやすく食用不振といった場合は、六君子湯や参苓白朮散がお奨めです。