板藍根と言えば、SARS(重症急性呼吸器症候群)の時に中国で意外な「封じ神」となった漢方生薬で、台湾においても、C型肝炎治療薬や風邪薬など幅広く用いられています。
板藍根という生薬
『板藍根』は、アブラナ科のホソバタイセイ(Isatis tinctoria)またはタイセイ(I. indigotica)の根茎及び根が用いられ、別名は「靛青根」、「藍靛根」となっていて、その原産地は中国、台湾などになります。
キツネノマゴ科のリュウキュウアオイの根茎や根が用いられることもあります。
日本では、中部地方で栽培されていて、その収穫時期は秋になります。
板藍根は、根茎や根を用いますが、葉や枝葉は、『大青葉(たいせいよう)』として生薬として用いられます。
板藍根は染料にもなる
板藍根の原植物であるホソバタイセイやタイセイは、インジゴという古くから世界各地で藍色の染料として用いられてきました。
現有成分であるインジカンを発行させて加水分解することにより、インドキシルという成分ができ、さらにこれが空気により酸化されることでインジゴという藍色の染料になるのです。
板藍根の薬理作用
板藍根の薬理作用は、抗菌作用、抗ウイルス作用があります。その抗菌スペクトルは広く、雅趣のグラム陰性菌・陽性菌の細菌を抑制するという報告もあります。
中国では風邪薬やうがい薬として用いられ、また抗ウイルス作用としては、in vitro ですがインフルエンザウイルスを抑制したという報告がある他、SARSの時に中国で用いられました。
漢方生薬として、清熱涼血・解毒に用いられます。
『清熱涼血』という難しい中医学用語がでてきましたが、簡単に説明します。
『清熱』とは発熱や発汗、狡猾や便秘などの治療として熱を取り除くという働きをもっているものということになります。実際の体温の上昇を伴わないほてり・のぼせにの自覚症状の治療にも用いられます。
『涼血』とは血にある熱邪を取り除くことで、熱感や口渇といったものを治療していきます。
つまり、感染性熱性疾患、肺炎などに用いられます。
清肺排毒湯について
板藍根は入っていないのですが、新型コロナに関連して中国で注目された漢方処方をご紹介します。
それが、『清肺排毒湯』で、新型コロナに対して中国では現場で「清肺排毒湯」を使うように主導し、ある程度の治療成績を出したとされています。
『清肺排毒湯』についての効果の検証は、今後されていくと思いますが、残念ながら、日本には『清肺排毒湯』という処方はなく、金沢大学付属病院漢方医学科の小川恵子先生が『COVID-19感染症に対する漢方治療の考え方』においては、日本のエキス製剤を組み合わせて、清肺排毒湯と同様なものをつくることができるとしています。
それが、『麻杏甘石湯+胃苓湯+小柴胡湯加桔梗石膏』です。
『清肺排毒湯』は、軽症から重症まで幅広く用いるとされていますが、処方内容をみると、かなり多くなっています。
日本漢方では中国と比べて使う生薬量が少ないということが貝原益軒の『養生訓』にも記載にもあります。
日本にそれを当てはめると、中国の1/2ないし1/3量でもよいのかもしれないとされています。
また、同薬効と言って良いものとしては、『藿香正気散+麻杏甘石湯+小柴胡湯』という組み合わせでもいけそうです。