免疫は、自分とは異なるもの、いわゆる細菌やウイルスが外から侵入してきたとき、または腫瘍など自己とは違うものが体の中にできたとき、それを排除しようとするシステムです。
それならば、妊婦のお腹の中にいる胎児は、非自己ということになってしまうので、母親の免疫力によってとても体内にはいられない状態になってしまいます。
こうなると哺乳類は地球上に存在しえなくなってしまいますが、実際にはそうなっていません。なぜなのでしょうか。
免疫とホメオスタシス
ホメオスタシス(homeostasis)は、『恒常性』で、平たく言うと、なるべく今の状態を維持しようとする働きと言えます。
人間の身体は、自己と非自己を厳格に認識するようにできていて、免疫システムによって、非自己を排除し、自己の存在を確立しているといっても良いでしょう。
例えば、細菌が抗原として体内に侵入してくると、非自己と認識してリンパ球のB細胞を増殖させて抗体を作り、抗原である細菌を体から排除して通常の状態に戻そうと働きます。
一方で、自己を構成している成分に対しても自己であることを認識し、監視しています。
そして少しでも変化したら、直ちに非自己とみなして排除しようというしくみになっています。
そのために、常に一定の状態を保持、つまり恒常性(ホメオスタシス)する働きがあるのです。
母体と胎児
母体にとって胎児は、体内にいるものです。
半分は自己の遺伝子ですが、もう半分は父親から受け継いだ遺伝子になっているので、非自己になります。
非自己ということで移植臓器と同じようなものです。
もちろん理論上は非自己なので、母体のリンパ球は胎児を非自己とみなし、排除するように働くはずですが、そんなことが起きてしまっては大変です。
実際にもそのようにはなりません。
なぜ胎児は攻撃されないのか
それでは、なぜ母体は胎児を攻撃しないのかというと、これまた人間の身体は複雑巧妙にできているものです。
妊娠すると、母体では胎児の抗原に対する免疫反応を抑制する制御性T細胞が活性化してくるのです。
また胎児の抗原に対する抗体を無力化する抗体が作られます。
こうした働きで、胎児に対する免疫反応を弱めてしまっているのです。
このことは免疫寛容と呼ばれていて、妊娠を維持するための必要な仕組みになっているのです。