「タダほど怖いものはない」というように、無料のものほど、あとで実はいろいろと費用がかかったりするのではない
かとか、そんな無料にしてたら儲からないじゃないか、きっと何か仕組みがあると考える人も多少なりともいます。
一方で、人間の心理として「1円も損したくない」という心理があるのも事実です。
無料サービスは、こうした人間の心理を利用したものですが、無料にして、本当に商売が成り立つのでしょうか。
マーケティングと行動経済学とアリエリー教授
『無料』ということに関して、行動経済学の専門家で、米国デューク大学のダン・アリエリー教授が行った有名な実験があります。
デューク教授は、いろいろな実験をしたり、自分の経験やエピソードもいれて、自分で作ったものには特別な思い入れが発生するというイケア効果など、型破りな展開をみせる魅力がある行動経済学者です。
近年、メディア、通信手段、消費者のライフスタイルの変化などに伴い、次々と新しいアイデアが登場してマーケティングの手法も大きく変わってきています。
一方、マーケティングが人間を対象としたもので、その人間に働きかけることによるものなので、変わらない要素もあります。
マーケティングを考えるとき、ターゲットであり働きかける対象である人間が、どんな欲求を持ち、何に動悸づけられ、そしてそれをどのように認知して、どんなバイアスのもとで意志決定を行うのかという行動経済学が非常に重要になってくるのです。
最強、無料の魅力
アリエリー教授が行った実験とは、チョコレートの実験です。
高級チョコを15セント、普通のチョコを1セントで販売したところ、73%の人が高級チョコを購入し、27%が普通のチョコを購入しました。
そこで、高級チョコを14セント、普通のチョコを無料で提供したところ、高級チョコの購入は31%になり、69%が普通のチョコを購入しました。
高級チョコも普通のチョコもどちらも1セント安くなったので、合理的に考えれば、もともと73%も購入していた高級チョコが、さらに1セント安い14セントで買えるのだから、高級チョコの購入率が上がっても不思議ではありません。
しかし実際には、高級チョコ購入率は31%に落ち込んでしまいました。
いかに『無料の魅力』がすごいのかというのがこれからわかります。
こうした『無料の魅力』を利用したビジネスモデルは『フリー戦略』と呼ばれたりもします。
無料でもいいの?
フリー戦略は、人間の『返報性の原理』というものを利用しています。
つまり他人に何かをしてもらったら、お返しをしたくなるというものです。
フリーミアム
『フリーミアム』の代表例は、試食や化粧品の無料サンプルです。
商品そのものやサービスを無料で提供し、一部の人に無料サービスを利用してもらうのです。
それで使い勝手が良かったりすると、友達に紹介したり、SNSに書き込んだりと、口コミで広がっていきます。
これを期待しているのです。
もちろんタダでサービスをしてもらっているので、心情的には「返報性の原理」で、あまりデメリットやマイナスになることは言いにくいのです。
直接的内部的相互援助
『直接的内部的相互援助』で代表的なのは、ピザ屋さんのサービスの「ピザ2枚目は無料」というようなサービスです。
2枚目無料という無料サービスを提示することで、有料サービスの購入を促す手法です。
非貨幣市場
『非貨幣市場』は、ネット通販などのレビュー、SNSの投稿などで、注目や評判を高めるために無料のサービスを提供する手法です。
無料でサービスを提供することで、それがネットで拡散され、大きな広告となるのです。
三者間市場
『三者間市場』は、いわばテレビCMやネットの検索サービスなどがそうです。
宣伝費用は、サービスの提供者でも、利用者でもなく、スポンサーが費用をまかなうやり方です。
利用者は無料でサービスを受けることができ、提供側もサービスを提供する費用はスポンサーが払ってくれます。
スポンサーは広告をいれて宣伝することで、利益につなげることができます。