馬と漢方・生薬・薬膳 | 健康トピックス

馬と漢方・生薬・薬膳 | 健康トピックス

2026年は「午(うま)年」。
馬は、力強く大地を駆け抜け、古来より「活力」「前進」「運気上昇」の象徴として愛されてきました。
そこで、馬と関係が深い生薬や漢方処方などをご紹介します。

実は、東洋医学でも「馬」は用いられています。
そこで「馬にまつわる生薬・漢方のトリビア」をご紹介します。
健康をはじめ、美容の話まで、「馬のチカラ」を紐解いていきましょう。


絶世の美女も愛した!?馬にまつわる究極の生薬

世界三大美人といえば、クレオパトラ小野小町、そしてあと一人は楊貴妃ですが、この楊貴妃が美肌を保つために欠かさず飲んでいたとされているのが、「阿膠」という生薬で、現在でも美容サプリメントの原料としても人気があります。
「阿膠(あきょう)」は、ウマではなくロバなのですが、ロバも一応ウマ科ということで、また馬を用いるケースもあるようで、そういった面では広く馬にちなんだ生薬と言ってもいいと思います。


生薬としての阿膠

「阿膠(あきょう)」は、ウマ科ロバ(驢馬 Equus asimus)の皮を、毛を取り除いてから煮て膠(にかわ)にしたものを言います。
膠(にかわ)とは、煮皮のことで、粗製のゼラチンのことになります。
従って、生薬「阿膠」は、ゼラチン驢皮膠(ろひきょう)とも呼ばれます。


阿膠の主要成分は、コラーゲン、 グルチン、 軟骨質、 アミノ酸類です。
現在の漢方では、ロバ以外に牛、馬、羊の皮を用いたりもするようです。


「阿膠」は、中国の山東省・浙江省などが主産地で、古来より山東省の東阿で産するものが良品とされていたため「阿膠」の名があると言われています。
ロバは成長が遅いため、ウシのように大量に繁殖させるのは難しく貴重であるとされています。


「阿膠」は漆黒色をしていて、日本では代わりに主として牛の皮や骨からとる日本薬局方のゼラチンが用いられたりします。


漢方薬における阿膠

漢方での「阿膠」は、止血・補血・補陰の作用があるため、種々の出血や慢性的な咳嗽などに用いられています。


止血作用としては、生地黄などを配合して吐血や鼻血に用いられたり、芎帰膠艾湯(キュウキキョウガイトウ)のように艾葉や白芍と配合され不正性器出血などに用いられたり、猪苓湯(チョレイトウ)のように猪苓や滑石などと配合され残尿感、頻尿、排尿痛などの症状や血尿に用いられたりします。


補血作用としては、顔色がさえない、眩暈がする、動悸がするといった貧血様症状に用いられ、炙甘草湯(シャカンゾウトウ)のように炙甘草や人参などと配合され貧血や秒後、虚弱体質などにみられる動悸などに用いたり、温経湯(ウンケイトウ)のように当帰や牡丹皮などと配合され月経異常、不妊症などの婦人科疾患に応用されたりします。


補陰作用としては、熱病や慢性病による水分低下、慢性的な乾咳に用いられ、黄連阿膠湯(オウレンアキョウトウ)のように黄連・黄芩を配合して、病後で体が消耗し、熱感があり煩躁して眠れないときに使用されたりします。


阿膠を用いた代表的な漢方製剤は次のとおりです

処方名 ヨミ 構成生薬 効能・効果
温経湯 ウンケイトウ 半夏3-5、麦門冬3-10、当帰2-3、川芎2、芍薬2、人参2、桂皮2、阿膠2、牡丹皮2、甘草2、生姜1、呉茱萸1-3 体力中等度以下で、手足がほてり、唇がかわくものの次の諸症:月経不順、月経困難、こしけ(おりもの)、更年期障害、不眠、神経症、湿疹・皮膚炎、足腰の冷え、しもやけ、手あれ(手の湿疹・皮膚炎)
黄連阿膠湯 オウレンアキョウトウ 黄連3-4、芍薬2-2.5、黄芩1-2、阿膠3、卵黄1個 体力中等度以下で、冷えやすくのぼせ気味で胸苦しく不眠の傾向のあるものの次の諸症:鼻血、不眠症、かさかさした湿疹・皮膚炎、皮膚のかゆみ
芎帰膠艾湯 キュウキキョウガイトウ 川芎3、甘草3、艾葉3、当帰4-4.5、芍薬4-4.5、地黄5-6、阿膠3 体力中等度以下で、冷え症で、出血傾向があり胃腸障害のないものの次の諸症:痔出血、貧血、月経異常・月経過多・不正出血、皮下出血
杏蘇散 キョウソサン 蘇葉3、五味子2、大腹皮2、烏梅2、杏仁2、陳皮1-1.5、桔梗1-1.5、麻黄1-1.5、桑白皮1-1.5、阿膠1-1.5、甘草1-1.5、紫苑1 体力中等度以下で、気分がすぐれず、汗がなく、ときに顔がむくむものの次の諸症:せき、たん、気管支炎
炙甘草湯 シャカンゾウトウ 炙甘草3-4、生姜0.8-1(ヒネショウガを使用する場合3)、桂皮3、麻子仁3-4、大棗3-7.5、人参2-3、地黄4-6、麦門冬5-6、阿膠2-3 体力中等度以下で、疲れやすく、ときに手足のほてりなどがあるものの次の諸症:動悸、息切れ、脈のみだれ
猪苓湯 チョレイトウ 猪苓3-5、茯苓3-5、滑石3-5、沢瀉3-5、阿膠3-5 体力に関わらず使用でき、排尿異常があり、ときに口が渇くものの次の諸症:排尿困難、排尿痛、残尿感、頻尿、むくみ
猪苓湯合四物湯 チョレイトウゴウシモツトウ 当帰3、芍薬3、川芎3、地黄3、猪苓3、茯苓3、滑石3、沢瀉3、阿膠3 体力に関わらず使用でき、皮膚が乾燥し、色つやが悪く、胃腸障害のない人で、排尿異常があり口が渇くものの次の諸症:排尿困難、排尿痛、残尿感、頻尿
右帰丸 ウキガン 熟地黄8、枸杞子3、杜仲3、山茱萸3、山薬3、阿膠3、当帰3、菟絲子2、桂皮2、附子1 元気がない、疲れやすい、腰や膝がだるく無力、腹痛、四肢の冷え、寒がる、寒冷をきらう、インポテンツ、不妊、遺精、不消化下痢、舌質が淡、脈が沈細で無力


<参考文献>
漢方のくすりの事典 第2版(医歯薬出版)


「阿膠(あきょう)」は、生薬として使われていますが、厚生労働省の食薬区分通知においては、医薬品的効能効果を標ぼうしない限り医薬品と判断しない成分リストにあげられています。
つまり、健康食品・サプリメントとしても使用ができます。
現在(2026年1月2日現在)、アキョウを使用した特定保健用食品(トクホ)や機能性表示食品はありません。


生薬製剤における阿膠

阿膠(アキョウ)を配合した生薬製剤はいくつかOTC医薬品で販売されています。

商品名 メーカー 機能性表示成分・有効成分 許可を受けた表示内容・効能
イスクラ婦宝当帰膠B イスクラ産業株式会社 トウキ・オウギ・ジオウ・シャクヤク・ブクリョウ・トウジン・カンゾウ・センキュウ、アキョウ 更年期障害による下記疾患:頭痛、肩こり、貧血、腰痛、腹痛、めまい、のぼせ、耳鳴り、生理不順、生理痛、冷え症
降圧丸 八ッ目製薬(株) レイヨウカク・トウキ・オウレン・テンマ・ジオウ・ダイオウ・コハク・ジンコウ・センキュウ・アキョウ・カンゾウエキス 高血圧に伴う頭痛・どうき・手足のしびれ・肩のこり・のぼせ・めまい・いらいら
止血 (株)建林松鶴堂 ボタンピ末・ジオウ末・オウレン末・シャクヤク末・オウバク末・トウキ末・サンシシ末・オウゴン末・チモ末・アキョウ末・ゲンジン末・カロコン末 口内出血、歯齦出血、喀血、鼻血、痔出血、子宮出血、月経過多症の止血
治咳湯 (株)建林松鶴堂 キョウニン・マオウ・キキョウ・ショウキョウ・カンゾウ・ソウハクヒ・サイコ・ブクリョウ・ゴミシ・アキョウ・ダイフクヒ・ウバイ・シソシ・チンピ 百日咳、感冒、咳嗽
当帰養血精 八ッ目製薬(株) トウキ・オウギ・ジオウ・ブクリョウ・シャクヤク・トウジン・アキョウ・センキュウ・カンゾウ 更年期障害による次の諸症:頭痛、肩こり、貧血、腰痛、腹痛、めまい、のぼせ、耳鳴り、生理不順、生理痛、冷え症
ナンパオ 田辺三菱製薬株式会社 ロクジョウ・カイバ・トチュウ・アキョウ・コウクジン・ケイヒ・トウキ・ニンジン・コクロジン・ボタンピ・センボウ・トシシ・ホコツシ・コロハ・ハゲキテン・ニクジュヨウ・サヨウ・フクボンシ・ホウブシ・ゲンジン・ビャクジュツ・サンシュユ・バクモンドウ・インヨウカク・ジュクジオウ・クコシ・オウギ・ブクリョウ・センゾクダン・ゴシツ・カンゾウ 中年期以降における疲労倦怠感を伴う腰痛・肩こり
婦人宝 小太郎漢方製薬(株) トウキ・オウギ・ジオウ・シャクヤク・ブクリョウ・トウジン・カンゾウ・センキュウ・アキョウ 更年期障害による次の疾患:生理不順、生理痛、冷え症、貧血、腹痛、腰痛、肩こり、頭痛、めまい、のぼせ、耳鳴り
長城清心丸 アスゲン製薬(株) ゴオウ・カンゾウ・レイヨウカク・ニンジン・シャクヤク・ケイヒ・ボウフウ・センキュウ・トウキ・アキョウ・リュウノウ 次の場合の滋養強壮:虚弱体質、肉体疲労、病中病後、胃腸虚弱、食欲不振
日水清心丸 日水製薬(株) ゴオウ・トウキ・センキュウ・カンゾウ・シャクヤク・ニンジン・ケイヒ・ボウフウ・レイヨウカク・アキョウ・ブクリョウ・サンヤク 次の場合の滋養強壮:虚弱体質、肉体疲労、病中病後、胃腸虚弱、食欲不振
馬場安寿丸 アスゲン製薬(株) ゴオウ・カンゾウ・レイヨウカク・ニンジン・シャクヤク・ケイヒ・ボウフウ・センキュウ・トウキ・アキョウ・リュウノウ 次の場合の滋養強壮:虚弱体質、肉体疲労、病中病後、胃腸虚弱、食欲不振


ロバではなく本当に「馬」を使った幻の生薬があった!?

実は、漢方の生薬の中には、ロバではなく馬を使ったものもありますが、大変希少で幻の生薬となっています。


それは『馬宝(ばほう)』で、もう字からみて「宝」という文字が入っているとおり、お宝級の希少生薬なのです。


『馬宝(ばほう)』は、ウマ科のウマ(Equus caballus)胃腸内にできた結石を用います。
現代の日本でお目にかかることはまずないと思われる生薬ですが、漢方の専門書などをみると記載があります。
直径10cmぐらいの球形あるいは卵円形で、重さは重い物だと2.5kgにもなり、表面はやや青みが勝った灰白色で光沢があります。
断面も灰白色で、中に同心円の渦紋がいられ、顕微鏡などでみると草の繊維がみられたりします。


漢方では鎮静、化痰、清熱、解毒の効能があるとされ、症状としては痙攣や動悸を鎮めたり、熱病に伴う意識障害、吐血、鼻血、腫れ物に用います。


<参考文献>
漢方のくすりの事典 第2版(医歯薬出版)


化粧品における馬の利用

化粧品においては、馬は、エモリエント剤の『馬乳脂』、皮膚コンディショニング剤の『馬乳』『馬湯』などとして利用されています。


『馬乳脂』は、馬の乳から得られる脂質で、保湿や肌荒れ防止に役立ちますが、一般的に「馬油」として広く知られているのは馬の脂肪(たてがみや皮下脂肪)から抽出・精製された動物性油脂になります。


『馬乳』は、雌馬から得られる全乳で乳清タンパク質、多価不飽和脂肪酸に富んでいます。


『馬油(ばーゆ)』は、馬のたてがみや腹の脂肪、尾の基部、皮下脂肪層などを火にかけ煮立たせ、不純物をろ過してつくられ、昔から殺菌作用と組織修復を助ける作用があることから、火傷や切り傷など様々な皮膚症状に万能油として用いられてきました。


不飽和脂肪酸であるα-リノレン酸が豊富に含まれ、炎症を抑えて血行を促進する働きも期待できます。
そして、肌になじみやすく柔軟効果に優れ、水分の保持効果にも優れていて、特に高い保湿力は注目され、ヒトの皮脂に最も近い油脂とも言われています。
そのため、スーっと浸透し、肌に潤いを与えるため赤ちゃんから高齢者まで、全身の保湿ケアに用いられます。


<参考文献>
北海道純馬本舗:https://junbayu.com/whats-bayu


薬膳としての馬肉(桜肉)

東洋医学には「食薬同源」という言葉があり、食べ物も立派な薬という考え方おあります。
実は、馬肉は非常に優れた「健康食材」で、医食同源から考えると、次のように分類されます。


五性(性質): 寒(体を冷やす)〜平(中間)
五味(味): 甘酸(滋養強壮)
帰経 : 肝・脾


馬肉の成分的には、栄養的には高タンパク質、低脂肪、ヘム鉄が豊富で、貧血予防、筋肉強化、疲労回復に役立ちます。
その他、ビタミンB2、ビタミンB12、エネルギー源としてグリコーゲン、ペプチド(血圧低下作用)、カルノシン(抗酸化)などを含んでいます。
保存は、冷蔵保存が基本で、長期は冷凍保存します。


馬肉は、豚肉や牛肉に比べて「鉄分」が数倍豊富で、さらにグリコーゲンも豊富。
体に余分な熱がこもっている時や、元気をつけたいけれど脂肪分は控えたいという時にオススメです。


逆に寒性食品なので、冷え性の人は生の馬刺しよりも、加熱調理したものや生姜などの温める食材と一緒に食べるのがオススメです。