

花は、桜の開花に代表されるように、その季節によって開花します。
しかし、その開花時期においても、夜は花は閉じ、朝になると花が開くという開閉を繰り返す植物もあります。
花が咲いたり、閉じたりするのにはどんなメカニズムが関わっているのでしょうか?
花を開花させるための刺激は、チューリップタイプ・タンポポタイプ・アサガオタイプといくつかパターンがあります。
この違いを科学的に研究する学問は、『植物生理学』になり、光、温度、接触などの外部刺激に対し、植物の花が開花したり閉じたり、茎や花が決まった方向へ曲がる運動をすることを『傾性運動(けいせいうんどう)』と言います。
花の開花などに関しても、それが温度によって起こる場合は『温度傾性』、光によって起こる場合は『光傾性』と言われます。
なぜ筋肉もないのに、なぜ花びらが開いたり閉じたりするのかというと、外部の刺激などにより花びらの表と裏で細胞の成長スピード・膨張率に差異がうまれることで物理的に曲がり、その結果として花びらが開いたり閉じたりするのです。
この花びらの表と裏で細胞の成長スピード・膨張率に差異により花が開いたり閉じたりする仕組みは、どんな花にも共通している仕組みになっています。
チューリップは、温度によって開閉する『傾温性』になります。
チューリップの花は、開花時期になると、朝に花を開き、夕方になると花を閉じるという開閉運動を約10日ほど繰り返します。
気温が約15℃〜20℃以上と暖かくなってくると、花びらの内側の細胞が外側よりもよく伸びてくることで開花します。
そして気温が約10℃以下と寒くなってくると、今度は逆に花びらの外側の細胞が内側より伸びることで花が閉じます。
これを発見したのは、イギリスのウッドとう科学者で、花の開閉運動のしくみを調べるために、1枚の分厚い花びらを外側と内側の二層に分けて水に浮かべ、水の温度を上げると花びらの内側は敏感に反応して急速に伸びることを発見しました。
寒い夜間は冷気からおしべやめしべを守るために花が閉じ、暖かくなる日中は、ミツバチなどに花粉を運んでもらうために花が開くのです。
だからこそ、花を長持ちさせたい場合は、5℃~10℃ぐらいの所で保管し、花の開閉を抑えるのです。
チューリップタイプ、つまり『傾温性』により花が開閉する植物には、ポーチュラカやクロッカスなどがあります。
<参考>
チューリップの開閉運動(ウッドの研究)
Thermonasty in Tulip and Crocus Flowers. Annals of Botany.17(4), 1953, p659–677.
タンポポは、『傾光性』の性質を持っています。
タンポポの花は、朝明るくなることにより開花し、光によって開閉します。
しかし、光だけが関与しているというわけではなく、温度も関係していて、西洋タンポポの場合は、夜の気温が13℃以上であれば明るくなるにつれ花は開きはじめますが、夜の気温が13℃未満だと明るくなっても花は開きません。
しかし、気温が13℃以上にあがっても、暗ければ花は開きません。
日中であっても、雨の日など太陽光が十分にあたらず暗ければ、花は咲かずに閉じたままです。
これは、花粉を湿気から守るためではないかと考えられています。
タンポポタイプ、つまり『傾光性』により花が開閉する植物には、ムラサキカタバミなどがあります。
<参考>
タンポポの開花運動に関する研究 (第1報) 開花および閉花に及ぼす温度と光の影響. 植物学雑誌 (Botanical Magazine, Tokyo), 77(908), 1964, p37–44
アサガオの花の開閉は、タイマーが関係した『光周性』によるものになっています。
アサガオの花は、夕方に暗くなることが刺激となって花が開閉します。
花が閉じるときは、日が昇り、温度が上昇して日差しが強くなると、花弁から水分が蒸発し、しぼんでいきます。
アサガオのつぼみは暗くなると時を刻み始めて、それから一定の時間が過ぎると花が開くようになっているのです。
つまり、朝暗くても、前日の夕方に暗くなってから10時間経過すればアサガオの花は開きます。
厳密には光を感じて咲く『傾光性』ではなく、植物体内の時計によって開花する時間が決まってくる『光周性』になっているのです。
これを利用すると、人為的に暗くなる時間をずらせば、開花する時間をずらすこともできるのです。
人為的に夜を長くして、日中も暗い場所に置くことで、アサガオを夕方に咲かせることも可能なのです。
アサガオタイプ、つまり『光周性』により花が開閉する植物には、ツキミソウやゲッカビジンなどがあります。
ちなみに、ゲッカビジンは『月下美人』というその名のとおり、夜に開花しますが、もし夜ではなく昼間に開花させたいのであれば、開花3日前ぐらいのふくらみ始めたつぼみを、昼は暗い場所に入れ、夜には蛍光灯の光を当てれば、つぼみを昼間に開花させることができるのです。
<参考>
Environmental Factors Controlling the Time of Flower Opening in Ipomoea nil. Plant and Cell Physiology, 20(8), 1979, p1659–1666

さて、日本の春を象徴する桜(ソメイヨシノ)の開花についてみていきましょう。
桜は、チューリップタイプ(傾温性)か、タンポポタイプ(傾光性)か、アサガオタイプ(光周性)かということで分類をすれば、夜桜を楽しむことからもわかるとおり、夜も花が咲いたままですし、気温の合算で開花すると言われているので、温度によって開花するチューリップタイプ(傾温性)になるのですが、チューリップとは少し違っています。
桜は単に「暖かくなったから」咲くわけではありません。
は、前年の夏から準備が始まっていて、「休眠」と「目覚め」の緻密なステップを踏んでいます。
夏に作られた花芽は、冬の寒さに耐えるために秋になると成長を止め、自発休眠と言われる深い眠りに入ります。
そして一定期間、5℃〜10℃前後の低温にさらされることにより、桜は「冬が来た」と認識しえ、休眠を解除する準備を整えるのです。
これは「休眠打破(きゅうみんだは)」と呼ばれています。
眠気防止ドリンクに『眠眠打破(みんみんだは)』というものがありましたが、何か名前が似ていますね。
最近では天気予報などでもよく言われているので、ご存じの方もいると思いますが、桜(ソメイヨシノ)の開花予想には「600℃の法則」というものがあります。
これは、「2月1日からの最高気温の合計が600℃を超えると開花する」というものですが、ちょうど寒い時期、5℃〜10℃前後の低温にさらされるのが2月1日ごろで、休眠打破で桜が目覚め、その後の成長速度が温度に比例することに基づいた経験則からきています。
つまり桜の開花には、厳しい冬の寒さが必要で、冬を感じることで目覚めて開花の準備を始め、目覚めた後の桜は、春の気温上昇に反応して一気に成長していきます。
暖冬で十分に冬の冷え込みがないと、休眠打破がスムーズに行われずに、逆に開花が遅れたり不揃いになったりしてしまうのです。
<参考>
桜の花芽の休眠に関する生理学的研究 (第1報) 休眠完了におよぼす低温の影響. 園芸学会雑誌 (Journal of the Japanese Society for Horticultural Science) 40(3), 1971, p268–274
温量指数による温帯落葉樹の開花時期の予測. 農業気象 (Journal of Agricultural Meteorology) 40(4), 1985, p343–350
Development of a carbon dioxide sensor for the prediction of flowering time in Japanese cherry. 農業気象 (Journal of Agricultural Meteorology) 48(5), 1993, 643–646