
根性に頼らない、神経科学に基づく習慣化のコツ | 健康トピックス
近年の神経科学・行動科学の研究により、それは「性格」や「根性」の問題ではなく、脳の仕組みで説明できることがわかってきました 。
その脳のしくみとともに、途中で挫折しない健康目標の立て方のコツについても解説しています。

「今年こそ運動を続けるぞ」「毎日早起きする」「甘いものを控える」
新年になると多くの人が健康目標を立てますが、1月の半ばを過ぎる頃にはその多くが静かに消えていきます。
実際のデータで裏づけられていて、フィットネスアプリStravaが数億件のアクティビティデータを分析したところ、1月19日前後に最も多くの人が運動習慣を断念することを突き止めていて、「Quitter's Day」'と名づけられているという事実もあります。
<参考文献>
* Norcross, J. C., et al. (2002). "Auld Lang Syne: Success rates of New Year’s resolutions."
これは決して「意志が弱い」からではありません。
近年の神経科学・行動科学の研究により、それは「性格」や「根性」の問題ではなく、脳の仕組みで説明できることがわかってきました 。
<参考文献>
* Heatherton, T. F., & Wagner, D. D. (2011). "Cognitive neuroscience of self-regulation failure."
* ケリー・マクゴニガル 著『意志力の科学』
そこで神経科学・行動科学の研究に基づき、意志力、報酬系、習慣形成という3つの視点から、新年に立てた目標が失敗しやすい理由を解説するとともに、どうしたら健康目標を達成できるようになるのか、そのコツについてご紹介していきます。
それではまず最初に、意志力からみた視点をお話します。
昔は、健康目標を立てて、行動変容をしようとした時、「やろうと決めて実行する力」つまり『意志力』が必要です。
そして「強い意志があれば成功する」と考えられてきました。
しかし、その『意志力』は、いわば有限な脳資源なのです。
脳の中で、意志的な行動を司ってコントロールしている主な部位は、前頭前野と呼ばれる部分です。
この前頭前野には、計画立案を行う実行機能の核ともいえる背外側前頭前野(はいがいそくぜんとうぜんや)、衝動抑制、自己制御を担う眼窩前頭皮質(がんかぜんとうひしつ)などがあり、計画を立てたり衝動を抑えたりする重要な役割を果たしていますが、非常に疲れやすいという特徴があります。
<参考文献>
* Miller, E. K., & Cohen, J. D. (2001). "An integrative theory of prefrontal cortex function."
* Fuster, J. M. (2015). "The Prefrontal Cortex."
前頭前野は、非常にエネルギー消費の大きい領域でもあるからで、ストレスや睡眠不足、空腹、さらには現代社会でいうと情報過多といったものも、前頭前野の機能を容易に低下させてしまう要因になります。
<参考文献>
* Baumeister, R. F., et al. (1998). "Ego depletion: Is the active self a limited resource?"
* Arnsten, A. F. (2009). "Stress signalling pathways that impair prefrontal cortex structure and function."
特に年末年始を考えてみると、正月休みに入り、暮れは忘年会のつきあい、大掃除、買い出しで人込みに出ていくなどで大忙しで、正月になると、ついついのんびりして運動不足になったり、おせちやお餅を食べすぎたり、とにかく生活リズムが乱れやすい時期でもあります。
つまり、年頭に目標を立て、よしやるぞ!といったスタート時点の元日、新年を迎えた時点で、すでに年末年始の生活リズムの乱れにより、意志力を消耗しやすい状態にある人も少なくないのです。
そんな状態で「今日から毎日30分運動するぞ」といったように高負荷な自己制御を求めると、脳は早々に疲弊してしまい、もうイヤといって元の行動パターンへと戻ろうとしてしまうのです。
これが新年に立てた目標が挫折しやすい一つの理由です。
前頭前野の主な部位とその働き
| 部位名称 | 具体的な位置 | 主な働き(役割) |
|---|---|---|
| 背外側前頭前野 (dlPFC) | 前頭葉の外側・上部 | 実行機能の核。ワーキングメモリ、計画立案、戦略的思考、注意の制御。 |
| 腹外側前頭前野 (vlPFC) | 前頭葉の外側・下部 | 抑制と選択。不適切な反応の抑制、情報の想起、言語的な処理。 |
| 眼窩前頭皮質 (OFC) | 前頭葉の底面(眼窩の上) | 報酬と感情の評価。意思決定、感情の制御、状況に応じた柔軟な行動の選択。 |
| 内側前頭前野 (mPFC) | 前頭葉の内側(左右の脳の合わせ目) | 社会脳・自己参照。自分や他人の心の推測(メンタライジング)、意欲の生成。 |
| 前帯状回 (ACC) | 前頭葉の内側・帯状回の前部 | エラー検出・葛藤監視。ミスを察知する、複数の選択肢から葛藤を解決する。 |
意志力の視点の次は、報酬系の視点を見ていきましょう。
ずばり言うと、脳は「今すぐの満足」を優先するようにできています。
実は人間の脳には、『報酬系』と呼ばれる仕組みがあって、これは「快い結果が得られた行動を、もう一度やろう」と学習するための重要なシステムなのです。
この報酬系に深く関係しているのが、前頭前野にある眼窩前頭皮質(がんかぜんとうひしつ)で、ここでは報酬と感情の評価が行われています。
<参考文献>
* Schultz, W. (2015). "Neuronal reward and decision signals: from theories to data."
* Rolls, E. T. (2000). "The orbitofrontal cortex and reward."
しかし、この報酬系のやっかいなところは、即時的な刺激に対して強く活性化するために「将来の健康」よりも「今すぐの快さ」に強く反応する性質になっているのです。
<参考文献>
* Laibson, D. (1997). "Golden Eggs and Hyperbolic Discounting."
* McClure, S. M., et al. (2004). "Separate neural systems value immediate and delayed monetary rewards."
運動によって健康効果が実感できるのは、速くても数週間から数カ月はかかりますが、甘いものを食べたときに感じる快感は数秒、口の中に入れた瞬間に味わえます。
この時間差は、非常に大きく、脳は即時的な快感を高く評価し、健康行動のような遅延報酬は、脳内で低評価を受けてしまいがちです。
つまり、脳はもともと「今がラク」という選択を選んでしまうのです。
そのため、健康行動は頭では重要だと理解していても、日常生活の中では後回しにされがちになってしまうのです。
これはべつに怠けているからではなく、脳の特性によるもので、誰にでも多かれ少なかれこの傾向があるのです。
これが新年に立てた目標が挫折しやすい二番目の理由です。
さて、最後に習慣形成の視点で見ていきましょう。
みなさんは、私達の行動のほとんどは、意識的に選択されていると思うかもしれません。
しかし意外かもしれませんが、神経科学の研究から、私達の日常行動の多くは、意識的な判断ではなく「習慣」によって自動的に行われていることが分かっているのです。
<参考文献>
* Neal, D. T., Wood, W., & Quinn, J. M. (2006). "Habit—A repeat performance."
* ウェンディ・ウッド 著『習慣の力(Good Habits, Bad Habits)』
この「習慣行動」は、脳の「基底核」という部位、特に線条体の内側にある尾状核で制御され、ほとんどエネルギーを使わずに実行されています。
一度習慣として固定された行動は、ほとんどエネルギーを使わずに実行できるため、脳にとって非常に効率的なのです。
基底核の主な部位とその働き
| 部位名称 | 具体的な位置 | 主な働き(役割) |
|---|---|---|
| 線条体 (Striatum) | 大脳深部(尾状核と被殻の総称) | 基底核の入力部。大脳皮質からの情報を受け取り、行動の開始や習慣化を司る。 |
| 尾状核 (Caudate Nucleus) | 線条体の内側 | 認知的処理。前頭前野と連携し、目標指向的な行動や学習に関わる。 |
| 被殻 (Putamen) | 線条体の外側 | 運動の制御。運動皮質と連携し、運動の熟練度やスムーズな実行を司る。 |
| 淡蒼球 (Globus Pallidus) | 被殻の内側(内節と外節がある) | 基底核の出力・中継部。視床を通じて大脳皮質へ信号を送り、運動にブレーキをかける。 |
| 視床下核 (STN) | 視床の下方 | 強力なブレーキ役。運動の行き過ぎを抑えたり、急な行動停止に関わる。 |
| 黒質 (Substantia Nigra) | 中脳の上部(緻密部と網様部) | ドーパミンの供給源。報酬予測や運動調節に不可欠なドーパミンを放出する。 |
これに対して新しい行動を始めるには、前頭前野による「意識的介入」が必要になってきます。
前述したとおり、前頭前野は、非常にエネルギー消費の大きい領域で、ストレスや睡眠不足、空腹・情報過多といったもので疲労しやすく、ストレス耐性が低いのです。
特に「これまで全くやっていなかった行動」を急に生活に組み込もうとすると、脳はそれに強い違和感を覚え、無意識の抵抗を生みます。
それが「三日坊主」につながりやすいのです。
<参考文献>
* Charles Duhigg 著『習慣の力(The Power of Habit)』
* ウェンディ・ウッド 著『習慣の力(Good Habits, Bad Habits)』
これが新年に立てた目標が挫折しやすい三つ目の理由です。
新年の健康目標が続かないことは、意志が弱いからというよりも、むしろ脳からの自然な反応なのです。
そうはいっても、健康目標は立てないとと思っている場合、どうしたら良いのでしょうか。
大切なのは、意志の強さに頼ることではなく、無理をしないことです。
*無理のない小さな行動から始める
*生活環境を少し整える
*できたことを評価する
といったようなことが大切になってきます。
<参考文献>
* BJ Fogg 著『習慣超大法(Tiny Habits)』
腕立て1回から始める」など、行動のハードルを極限まで下げることで脳の抵抗を防ぐメソッドを提唱しています。
健康習慣というと、多くの人が「毎日30分運動」「間食を完全にやめる」など、理想的で高い目標を立てがちです。
意気込みは立派なのですが、脳にとって負担が大きい目標ほど、継続は難しくなってしまいます。
健康目標は、長続きすることが重要で、そのためには行動のハードルをできるだけ下げることが大切です。
例えば
「毎日運動」ではなく「週に1回、5分体を動かす」
「食事改善」ではなく「1日1回、野菜を意識する」
といったように、「これなら体調が悪い日でもできそう」と感じるレベルから始めることがポイントです。
そして脳は「できた」という成功体験を積み重ねることで、次の行動を起こしやすくなります。
運動なら、「まとまった時間」「専用の服装」「場所」が必要だと考えると続かなくなります。
運動は「特別なこと」にしないのが続けるコツです。
例えば
エレベーターを1日1回階段に替える
テレビを見ながら、その場で足踏みを1分
買い物は少しだけ遠回り
といったように生活の中に自然に組み込まれた運動は、意志力をあまり使わずに続けやすくなります。
食事なら、最初から厳密に守ろうとすると、精神的な負担が大きくなるので、結果として長続きしません。
例えば
毎食カロリー計算をするのではなく、まずは夕食の主食を一口減らすようにする。
間食を完全にやめるというのではなく、まずは間食の時間を決める。
といったように、こうした少しの変化でも、長期的には血糖や体重に影響を与えることが、研究からも分かっています。
健康行動を続けるためには、意志力に頼らないでいいような環境づくりも効果的です。
なぜならば、意志力は疲労やストレスの影響を受けやすいので、毎回「頑張って決断する」というような感じだと長続きしません。
例えば、
運動したいのであれば、まずは運動しやすい服を目につく場所に置いてみる
間食を控えたいのであれば、買い置きを減らして冷蔵庫を開けても食べたいものがない状態にしておく
就寝時間を守りたいなら、寝る前のスマホの置き場所を工夫している
といったように、行動を「選択」するのではなく「自然な流れ」にしていくことがポイントです。
多くの人は、「体重が減らない」「数値が改善しない」といったように結果に注目しがちです。
しかし、健康行動の効果は時間をかけて現れることが多く、早期に結果を求めすぎると挫折につながりやすくなってしまいます。
脳の報酬系をうまく活用するためにも、結果ではなく行動自体を評価し、「今日は5分歩けた」とか「間食を一度我慢できた」といった小さな達成を評価するようにするとよいでしょう。
そして、目標のために頑張っているとき、どうしても体調不良や忙しさでできない日があるのは当然です。
こんなとき、「一度できなかったから、もう意味がない」となってしまうと、挫折・失敗につながってしまいます。
脳にとって重要なのは、再び行動に戻る経験を積むことです。
「完璧を目指さない」「できない日があっても責めない」ことが大切なのです。
そして、よく言われるのが、脳は「3週間続けると習慣になる」ということです。
この根拠は、形成外科医であったマルツ博士が、整形手術を受けた患者が自分の新しい顔に慣れたり、手足を切断した人が「幻肢」を感じなくなるまでに、最低でも約21日間かかることを観察したということを本に記載してベストセラーになったことからきていますが、これは習慣化というよりも「脳内の自己イメージが書き換わる期間」を指したものでしたが、後に「あらゆる習慣は21日で身につく」と簡略化されて世間一般に広がっていったという経緯があります。
<参考文献>
* マクスウェル・マルツ 著 『サイコ・サイバネティクス』 (Psycho-Cybernetics, 1960)
これは、脳の神経回路が変化し新しい行動が定着する目安とされていて、習慣化の第一歩として有効なのですが、あくまでも一つの目安として考えると良いでしょう。
もちろん個人差もあり平均では2カ月ほどかかるという研究結果もあります。
<参考文献>
* Lally, P., van Jaarsveld, C. H. M., Potts, H. W. M., & Wardle, J. (2010). "How are habits formed: Modelling habit formation in the real world." European Journal of Social Psychology.
大切なのは、3週間は一つの目安、途中目標としてとらえ、無理なく継続するための心理的ハードルを下げることで、その後も「楽しい」と感じられる状態を目指し、最終的には3カ月程度続いて本格的な習慣として定着させていくことを目標にすると良いでしょう。
もうここまでくれば、しっかり習慣化できていると思います。
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