あなたの性的妄想は異性にバレている? | 薬剤師トピックス

あなたの性的妄想は異性にバレている? | 薬剤師トピックス

意中の人を前にして、ひそかに「性的妄想」を膨らませたことはありませんか?実はその高揚感、口に出さなくても相手に「匂い」でバレているかもしれません。最新の脳科学と心理学の研究が、私たちが無意識に発している「性的信号」の驚くべき正体を解き明かしました。あなたの体から漏れ出す、目に見えない誘惑のサインとは?

2008年のZhou氏らの研究では、性的興奮状態の男性の汗を嗅いだ女性の脳内を解析。すると、自覚症状はないにもかかわらず、脳の「顔認識」や「報酬」を司る部位が激しく反応することが判明しました。脳は匂いを通じて、相手の「性的意図」をダイレクトに読み取っていたのです。


さらに2020年のWisman氏らの調査では、男性もまた女性の興奮サインを敏感に察知していることが分かりました。
女性の「興奮した汗」の匂いを嗅いだ男性は、性的モチベーションが急上昇し、女性をより魅力的に感じるようになります。
驚くべきは、これらのやり取りがすべて「意識の下」で行われていること。たとえ表情を隠しても、あなたの汗は隠しきれない情熱を雄弁に物語っています。
脳と鼻が密かに行う「化学的な対話」こそが、恋の駆け引きを裏で操っている主役なのかもしれません。


「汗」で気持ちが見抜かれている? ヒト・ケモシグナルの不思議な科学


私たちは普段、コミュニケーションにおける情報のほとんどを表情や身振りといった視覚と、言葉や声のトーンといった聴覚から得ています。
しかし、生物学的な視点に立つと、もう一つの重要な「隠れた通信チャンネル」が存在しているのです。
それが『ケモシグナル(化学信号)』なのです。


動物は、フェロモンを通じて相手の性別、生殖状態、さらには感情までもを読み取ると言われていますが、こと人間に関して言えば、長年この能力を退化させてきたと考えられていました。
しかし、近年の脳科学研究は驚くべき事実が発見されたのです。


実は私たちは、相手が「性的興奮」を感じているときに分泌される微細な化学物質を、鼻でキャッチし、本人が全く気づかない「無意識のレベル」では脳で正確に処理していたのです。


女性の脳は、男性の「興奮」を鋭く見抜いていた

2008年、Zhou Wen氏とDenise Chen氏は、非常にユニークで少し過激な実験を行い、それにより衝撃的な結果を発表しました。


どんな実験かというと、20名の健康な男性を集め、その男性たちに性的刺激の強いビデオを視聴させ、その間に分泌された腋窩の汗を採取しました。
対象として教育ドキュメンタリーなどニュートラルなビデオを視聴させたときの汗も対照として採取しました。


一方、19名の健康な女性を集めて、「性的興奮した男性の汗」と「ニュートラルな状態の男性の汗」を交互に嗅いでもらい、その時の脳の活動をfMRI(機能的磁気共鳴画像法)を用いてリアルタイムで測定しました。
女性たちは、自分が嗅いでいるのがどのような汗であるかは知らされていません。また、主観的な評価(匂いの強さ、快・不快など)も記録されました。


女性たちは、自分が嗅いでいるのが「性的汗」なのか「普通の状態の汗」なのか、主観的には全く区別することができず、「どちらもただの汗の匂いだ」と感じていました。


しかし、脳は正直でした。
性的興奮状態の男性の汗を嗅いだとき、女性の脳内では、報酬や感情的な価値を判断する場所である右眼窩前頭皮質(OFC)と本来「人の顔」を認識する時に使われる場所と言われている右紡錘状回(Fusiform Gyrus)、ホルモン分泌や性行動、自律神経系を司る脳の司令塔である右視床下部 (Right Hypothalamus)の領域が激しく活動していたのです。


眼窩前頭皮質が性的信号に対してこの領域が反応したことは、脳が「性的汗」を単なる匂いとしてではなく、「動機付け信号」として処理していることが示唆されました。
右紡錘状回が性的信号に対してこの領域が反応したことは、匂いの刺激が、顔処理の専門領域を活性化になるので、「性的化学信号」が「他者の存在」や「社会的なカテゴリー化」と密接に結びついていることを示しています。
右視床下部が性的信号に対してこの領域が反応したことは、嗅覚刺激が被験者の生殖に関連するシステムに直接的な影響を与える可能性を裏付けています。


<参考文献>
Zhou, W., & Chen, D. (2008). Encoding Human Sexual Chemosensory Cues in the Orbitofrontal and Fusiform Cortices. Journal of Neuroscience.


男性の脳も女性の「サイン」に本能で応えていた

2008年の研究から12年後、今度は「男性側はどうなのか?」という疑問に答えが出されました。
Arnaud Wisman氏らの研究では、女性の性的興奮が男性に与える影響が調査されました。


この研究でも、女性が性的興奮を感じている時の汗を採取し、男性に嗅がせました。
結果、男性も女性同様、主観的な匂いの違いは認識できませんでしたが、行動と生理反応には明確な差が出ました。


性的汗を嗅いだ男性は、そうでない場合に比べて「性的な刺激に対する関心」が有意に高まり、同じ女性の写真を見せても、性的汗を嗅いでいる最中のほうが、男性はその女性を「より魅力的だ」と評価したのです。


<参考文献>
Wisman, A., & Shrira, I. (2020). Sexual Chemosignals: Evidence that Men Process Olfactory Signals of Women's Sexual Arousal. Archives of Sexual Behavior.


なぜ私たちは「匂い」を自覚できないのか?

興味深いのは、多くの被験者が「その匂いが性的興奮によるものだ」と自覚していない点なのですが、人間の嗅覚系は、意識にのぼる「匂い(香り)」のルートとは別に、無意識のうちに脳の情動ネットワークを刺激するルートを持っているのではないかという結論にいたります。


意識のルートとは、そのまま嗅覚による感覚で、「あ、汗くさいな」「いい香水の匂いだな」といったようなものになります。
一方で、無意識のルートは、「なんだか理由はわからないんだけど、なぜかこの人には惹かれる」「説明できないんだけど、なんだかドキドキする」といったようなものになります。


私たちがよく言う「生理的に好き・嫌い」や「相性がいい」という言葉の正体は、実はこの無意識ルートで処理されたケモシグナル(性的化学信号)の結果なのかもしれないのです。