
スマホで認知症? 若年層と高齢者のスマホとのつきあい方
そんな悩みを感じることはありませんか? もしあなたが日常的にスマートフォンを長時間利用しているなら、それは加齢のせいではなく、「スマホ認知症」かもしれません。

現代人にとって、スマホはもはや体の一部と言っても過言ではありません。
しかし、その便利さの裏側で、私たちの「脳」は悲鳴を上げています。
そこで『スマホ認知症』の正体を解き明かし、若年層に迫るリスクと、意外にも高齢者にとっては「武器」になるという最新の研究結果も合わせて詳しく解説していきます。

家にある医学書を調べてみても『スマホ認知症』なんて病名の項目はどこにもないよ? と疑問に思った人もいるかもしれません。
国際疾病分類ICDを調べても、『スマホ認知症』なんていう疾患名はどこにも出てきません。
実は、医学書や国際的な診断基準である「ICD-11(国際疾病分類)」をいくらめくっても、『スマホ認知症』なんていう病名は出てきません。
『スマホ認知症』とは、スマートフォンの過剰利用によって脳が情報の処理しきれなくなり、物忘れや判断力の低下といった「認知症に似た症状」が出る状態を指す俗称で、わかりやすく言うと、脳過労という「フリーズ」状態と言えます。
しかし、単なる疲れと侮ってはいけません。スマホ依存が深刻な場合、ICD-11で新設された「ゲーム障害」や「依存症関連」の枠組みとして議論されるほど、現代社会において深刻な問題となっているのです。
『スマホ認知症』という言葉のルーツは、2012年にドイツの神経科学者マンフレッド・シュピッツァーが提唱した「デジタル・デメンチア(デジタル認知症)」だと言われています。
日本国内では、NHKの「クローズアップ現代」などのメディアで「30〜50代の働き盛りに起こる深刻な脳疲労」として取り上げられ、2018年から2020年にかけて一気に一般層へ浸透しました。
高齢者の認知症(アルツハイマー型など)が脳の器質的な変化(萎縮)を伴うのに対し、『スマホ認知症』は「情報の入力と整理が追いつかない」ことによる機能不全がメインになり、具体的には次のような症状が顕著に現れます。
もし、以下のような症状に心当たりがある人は、脳が「情報処理の限界」を迎えているサインかもしれません。
記憶力の低下
人の名前や簡単な漢字が思い出せない。
さっき聞いたばかりのことを忘れてしまう。
買い物に行っても、何を買うつもりだったか忘れる。
集中力・判断力の欠如
仕事や家事の効率が目に見えて落ちる。
単純なミスが増える。
昼食のメニューなど、些細な意思決定に時間がかかる。
情緒の乱れと身体症状
以前よりイライラしやすくなった。
感情のコントロールが難しく、急に不安になる。
慢性的な倦怠感、睡眠障害、眼精疲労、深刻な首や肩のコリ。
『スマホ認知症』は、病気というよりも脳過労による脳の「フリーズ」状態と言え、『スマホ認知症』の症状があっても確定診断のようなものはありません。
まずは、MRIなどで脳の萎縮が無いことを確認して、若年性アルツハイマーなどの「器質的な脳の病気」ではないことを確認する除外検査をします。
ここで異常がなければ、次にスマホの使用時間、生活習慣の聞き取りなどの問診・心理検査を行います。
そして必要に応じて前頭前野(思考を司る部分)の血流低下を確認するSPECT検査という検査を行います。
※SPECT検査
正式名称は「単一光子放射断層撮影(Single Photon Emission Computed Tomography)」。
CTやMRIとどう違うのかというと、これらが臓器の「形」を写すのに対し、SPECT検査は、微量の放射線を出す放射性医薬品を入れてその分布を特殊なカメラで撮影することで、臓器の血流や機能を画像化できるもので、「血流」や「代謝」といった「機能的な変化」を捉えられる検査になっていて、認知症の種類(アルツハイマー型かレビー小体型かなど)を見分ける場合などにも利用されます。
<参考:九州大学大学院医学研究院・臨床放射線化学分野:https://www.radiol.med.kyushu-u.ac.jp/medicalcare/nuclear-medicine/spect.html>
SPECT検査をする理由は、『スマホ認知症』の場合、前頭前野(特に意欲や思考、感情の制御を司る部分)の血流がガクンと落ちているケースが目立つからです。
なぜスマホを使いすぎると、『スマホ認知症』の症状が出るのでしょうか。その鍵を握るのが、脳の司令塔と呼ばれる「前頭前野」なのです。
前頭前野は、思考、意欲、感情の制御、記憶の整理などを司る非常に高度な部位になっています。
しかし、スマホから流れてくる情報の多くは、視覚や聴覚を刺激する「断片的な情報」で、それが次から次へと新しい情報として飛び込んでくると、前頭前野はそれらを整理し、定着させる作業に追われ続けてしまうのです。
このように絶え間ない情報の濁流により、前頭前野が「情報処理のオーバーフロー」を起こしてしまうと、「おい、もうたまらん! 少し休ませてくれ!」といわんばかりに省エネモードになりフリーズ状態となってしまうのです。
省エネモードのフリーズ状態で血流が低下するため、SPECT検査を行うと、前頭前野の血流が著しく低下していることが確認されるのです。
これが、『スマホ認知症』の症状となって、思考力や記憶力の低下という形で表れてくるのです。
スマホの過剰利用がどれほどリスクをもたらすのか、UAE(アラブ首長国連邦)で行われた18歳以上の成人401人を対象とした大規模な横断研究で恐ろしい事実が判明しています。
参考:
Mustafa N, Alrais AA, Alshammari M, et al. (2025)
The Association Between Smartphone Overuse and Cognitive Impairment Among Adults in the United Arab Emirates: A Cross-Sectional Study. Cureus 17(X): eXXXXX. doi:10.7759/cureus.99931
この研究では、スマホ依存度を測る「SAS-SV(スマートフォン依存尺度短縮版)」というツールを用いて参加者を分類しています。
SAS-SV(スマートフォン依存尺度短縮版)は「セルフチェック」として、以下の10項目について、1点: 全く当てはまらない、2点: 当てはまらない、3点: やや当てはまらない、4点: やや当てはまる、5点: 当てはまる、6点: 非常に当てはまるの6段階で評価して、合計点を出し、スマホ依存度を低リスク(Low-risk)、高リスク(High-risk)、依存(Addicts)に分類します。
スマホ依存のリスクがあるか、セルフチェックしてみてください。
① スマホの使いすぎで、予定していた仕事や勉強ができなかった。
② スマホのせいで、仕事中や講義中に集中するのが難しい。
③ スマホを使っているとき、手首や首の後ろに痛みを感じる。
④ スマホを持っていないと、耐えられないと感じる。
⑤ スマホを持っていないとき、イライラしたり落ち着かなくなったりする。
⑥ スマホを使っていないときでも、スマホのことが頭から離れない。
⑦ 日常生活に支障が出ていても、スマホの使用をやめられない。
⑧ SNSの通知を逃さないよう、常にスマホをチェックしている。
⑨ 予定していたよりも、長い時間スマホを使ってしまう。
⑩ 周囲から「スマホを使いすぎだ」と言われる。
研究によって少し違いはありますが、この研究では以下の基準で分類されています。
| 判定カテゴリー | 男性のスコア | 女性のスコア |
|---|---|---|
| 依存(Addicts) | 32点以上 | 34点以上 |
| 高リスク(High-risk) | 22点〜31点 | 22点〜33点 |
| 低リスク(Low-risk) | 21点以下 | 21点以下 |
このUAEの研究で最も衝撃的だったのは、家族などが客観的に評価する指標「AD8(簡易認知機能低下観察尺度)」を用いた結果です。
スマホ依存状態にあるグループでは、なんと51%の人に「認知機能障害の疑い(AD8スコア2点以上)」が見られました。
つまり、依存状態にある人の約2人に1人が、すでに趣味への関心低下や記憶力の減退といった、認知症の初期段階に近いサインを出していることがわかったのです。
ここまでスマホの悪影響についてお伝えしてきましたが、実は「年齢」によってスマホとの関係性はガラリと変わります。
2025年、フロリダ大学医学部のジャレッド・ベンジ(Jared Benge)博士らが、世界的に権威のある学術誌『Nature Human Behaviour』に発表したメタ分析の結果が、世界に衝撃を与えました。
参考:
Benge, J. F., Scullin, M. K., et al. (2025). A meta-analysis
of technology use and cognitive aging. Nature Human Behaviour.
この論文のタイトルを和訳すると「テクノロジーの使用と認知的老化に関するメタ分析」 となり、デジタル機器を使うことが加齢による脳の衰えをどう変えるのか?に答えを出した論文になっています。
41万人以上のデータを分析した結果、「50歳以上の高齢者においては、デジタル技術の使用頻度が高いほど認知機能低下のリスクが減少する」という結果が得られています。
ここで提唱されたのが、『技術的リザーブ(Technological Reserve)』という新しい概念です。
一言で言うならば、「デジタル機器を使うことが、加齢による衰えを防ぐ「盾」になる」という考え方です。
この考え方には3つのCと呼ばれる大きな理由があります。
① 複雑性(Complexity)
新しいアプリの使い方を覚えたり、ネットで情報を検索したりするプロセスは、脳にとって非常に高度で刺激的な知的活動です。この「新しさと複雑さ」が脳の神経ネットワークを活性化させます。
② 社会的つながり(Connection)
LINEでのやり取りやビデオ通話は、高齢者の認知症リスクの最大要因である「社会的孤立」を防ぎます。他者との交流が感情を刺激し、脳の老化を食い止めるのです。
③ 補償機能(Compensation)
スマホを「外付けの脳」として使う方法です。カレンダーのリマインダーやGPS、メモ機能を活用することで、衰え始めた記憶力を補い、自立した生活を長く維持できるようになります。
日本は世界でも『スマホ認知症』の研究や啓発が盛んな国です。
最近では、脳神経外科や心療内科に「スマホ外来」や「物忘れ外来」が設置されるケースも増えています。
日本認知症予防学会などの報告によると、一つの目安として「1日5時間以上のスマホ使用」が、脳過労のリスクを急激に高めるラインだと蓄積されつつあります。
もしあなたが1日5時間以上画面と睨めっこしているのならば、それはすでに「脳の非常事態」かもしれません。
近年、「スマホ使用と認知機能に関する実態調査」が行われていて、2023年から2024年にかけて日本認知症予防学会の学術集会やプレスセミナー等で発表されています。
おくむらメモリークリニックを受診した「物忘れ」を訴える患者(特に30代〜50代の若年・中年層)を中心としたデータで、1日のスマホ使用時間が5時間を超える層において、脳の「前頭葉」の機能低下、情報の処理が追いつかなくなる「脳過労(オーバーフロー)」の状態が顕著に見られる傾向があることが示されています。
長時間のスマホ使用による睡眠不足やストレスが、将来的なアルツハイマー型認知症の原因物質の蓄積を招くリスクについても言及されています。
参考:
不安の時代に急増する「スマホ認知症」◇「もの忘れ外来」の現場から(おくむらメモリークリニック・奥村歩)
https://www.jiji.com/jc/v8?id=202401spninchi
ジワリ増え続けるスマホ認知症の恐怖
https://tokyo-neurological-center.com/info/img/20190808-shincho-amano.pdf
【スマホ認知症】
予備軍1000万人か?長時間スマホ使用で脳が“ゴミ屋敷”に…記憶だけでなくコミュニケーションにも影響
https://mezamashi.media/articles/-/146587
幸いなことに、『スマホ認知症』はアルツハイマー型などの変性疾患と異なり、「可逆的」つまり元に戻る可能性がある状態です。
回復に必要なのは薬ではなく、生活習慣の改善、すなわち『デジタルデトックス』です。
臨床データでは、適切な休息を取ることで、数週間から数カ月でSPECT上の脳血流が改善し、認知機能が回復することが示されています。
「3大禁止ゾーン」の設定
「食事中」「入浴中」「寝る前」は絶対にスマホを触らないルールを作りましょう。
特に寝る前のブルーライトは、睡眠の質を著しく下げ、脳の回復を妨げます。
「ぼーっとする時間」を1日5分作る
何もしない時間は、脳の「デフォルト・モード・ネットワーク(DMN)」を活性化させます。これは脳が情報を整理整頓する大切な時間です。スマホを見ずに、ただ景色を眺める時間を持つようにします。
アナログ活動の導入
1日数回は、手書きでメモを取る、読書をする、散歩をするなど、五感を使う活動を取り入れます。
使用時間の制限
1日の使用時間を2~3時間以内に制限することを目指しましょう。
iPhoneやAndroidのスクリーンタイム機能を活用し、強制的にアプリを止めるのも有効です。
スマートフォンは、私たちの生活を豊かにしてくれる素晴らしい道具です。しかし、使い道を誤れば、私たちの最も大切な財産である「脳」を蝕む刃にもなり得るのです。
若年層のスマホの過度な使用は、スマホ依存になりスマホ認知症を誘発する一方で、高齢者の適度なスマホ利用は、脳を活性化して認知機能の保護に役立っているということになります。この辺の研究は、AIにおける脳への影響なども含め、今後ますます進んでいくと思われます。